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信仰起源
酒の香りと肉汁の匂い
これこそ、冒険者をやっていて良かったと感じる瞬間ですね!
特にこのザルツペッパー特有の香りとエールがあう事あう事!
財布の紐も胸の戸棚も緩くなるというものです!
酒の席はサカロスの一人舞台でしょうけれど、余興の豊富さはル=ロウドも負けてはおりませんよ。
さぁ、何か神話の1つでも話しましょうか?それとも東方の神秘の1つでも語りましょうか?

え?私の……昔語り、ですか?
下らないお話ですが、宜しいのですか?
そうですか……
なら、サカロスの力をお借りして、少々お話しましょう。

私の生まれた村はザルツの西、名も無い小さな鉱山の裾に広がった、小さな集落でした。
父は自警団で働く真面目なドワーフのグレンダール神官、母は裕福なグレンダール信徒の一人娘、二人はごく普通に恋をし、ごく普通に祝福され、何の不幸かナイトメアが生まれてしまいました。
穢れを嫌った母の両親は、父と母の仲を裂いて母を何処か別の街の神官へと嫁がせたのです。

ですが、幼少時の私は幸せでしてね。

物心付く前から父に育てられ、山羊の乳を飲んで育ち、少々の好奇の視線と恵まれた縁の中で育ったんです。

こんな私でも友達は居ました。
幼少のあだ名は“ノッポ”でしてね、何をするにも臆病な私は友達の後を突いて回っていましたよ。

私が良く遊んでいた友人は鋳掛屋の髭無しルガビナンと、小さな赤毛のハーニクック。
ルガは手先の器用さは私達の中で一番で、鋳掛屋の父親から貰った小さなナイフが大のお気に入り、ハーニクックは母親譲りの赤毛を三つ編みにして、何時も元気に笑っていました。
二人とも気味の悪い“角突きノッポ”の私と遊んでくれていた、大切な友達です。

ルガは私が石を投げつけられた時、私の為に怒ってくれました。
ハーニは私が石を投げつけられた時、男ならしっかりしなさいと励ましてくれました。

こっそりと白状しますが、私もルガも、明るく笑うハーニの事が大好きでした。


ちょうどその日はハーニの誕生日で、私は父から聞かされた遺跡について話したんです。
ルガの知らない知識をハーニにひけらかす優越感と、ちょっとした冒険心と一緒にね。

その遺跡は古代魔法文明の遺跡で、道を良く知らなければ行けない獣道を通らなければいけなくて、けれども子供の足でもたどり着ける私達にとっては素敵な場所でした。
私は真剣に聞き入るルガとハーニに気を良くして、その遺跡には決して近寄ってはならないという父の言葉を忘れ、うろ覚えの知識を話し続けたんです。

そうして、小さな冒険者の三人組が誕生しました。
お姫様を護る角突きノッポの騎士と髭無しの騎士。
私と、ルガと、ハーニは胸を冒険心で膨らませて遺跡に出かけたんです。

蝙蝠を振り払い、蜘蛛の巣を壊し、小さな蛇を木の棒で叩いて、お手製松明片手におっかなびっくりすすんで、そうした先、私達は古めかしい台座の上に浮かぶ、小さな紫色の水晶を見つけたんです。

感動しました。

今まで見た星よりも、或いは村の誰かが作った武器よりも、ソレは輝いて見えました。
そして、私とルガはその光り輝く宝石をハーニに手渡す事を何よりも誇りに思ったのです。

私達二人は顔を紅く染めながら、背伸びして水晶を取り外し、ハーニに手渡しました。

ハーニは今まで見たことの無いような笑顔で『ありがとう!』と喜びに溢れた言葉を返し、私とルガは照れくさそうに鼻をこすっていました。
今思い出しても人生で最高の時間でしたね。

……ルガの首より上が消えるまでは。

親友のルガの首が消えた時、私は泣くよりも、驚くよりも、叫ぶよりも早くハーニの手をとって走り出しました。

ルガの首がなくなる瞬間、老人の顔と獅子の四足、蝙蝠の羽と蠍の尻尾を持つ怪物がいやらしく笑っていたのですから。

私は左で松明を握り締め、右の手でハーニの手を握り、只ひたすらに走りました。首から上が消えた大好きな親友のルガのことなんて忘れたように。

ドレくらい逃げたのでしょうか、丁度外の光が見えたとき、少し小さな音がして、ハーニの手を握っていたてがふっと、軽くなったんです。

『ハーニ、どうしたんだい』

そう告げようと思って後ろを振り向いた私が見たものは……

私が握っている、小さな右腕だけでした。
小さな右腕の肘から先は、零れる紅い雫以外、何も無かったんです。

私は胸が裂けるような叫びを上げながら、ひたすら光が指す方へ、光が差すほうへ走りました。

そこに、陰が差しました。 父が居たんです。

私は父を恨みました、どうしてもっと早く着てくれなかったんだろう。
私は父に感謝しました、これで助かる。

そして、父は私の頭に手を置くと、老人の顔をした魔物に向けて、無骨なメイスを振り上げたのです。

ドレくらい経ったのでしょう、父と魔物の争いが終わったあと、両者とも息をしていませんでした。

私は脳裏に響く『君は風だ、君は想いを受け継ぐのだ』という声に支えられ、父の亡骸と、ハーニの右腕を引き摺って、集落に戻りました。


其処から先は良く覚えていません。
ただ、ルガも、父も、ハーニも居ないそこには、私の居る場所ではありませんでした。

そして、私は父の墓を作り、ルガとハーニの墓を眺めて、村を出たんです。
見送りが誰も居なくて、ほっとした事を覚えていますよ。

何故、私は生きて居るのか。何故、私はココに居るのか。
全てが自由であると唱える、我が神ル=ロウドは教えてくれはしませんでした。ただ、自らを知りたければ自らの起源を尋ねよと仰るばかりで。

以来、私は自らの起源である母を捜しているのです。
私が何故生きているのか、ソレは神ですら教えてくださいませんでしたから。
ただ、母に尋ねて見たいのです。

どうして、私のようなものを生んだのですか、と。


……いや、酒の席には相応しくない話でしたね。

さぁ、こんな辛気臭い話は終わりにして、今日はたっぷり飲みましょう!

私が奢りますとも!マスター、エールを皆さんに、私のおごりです!
ムージー@ゴーラン SW2.0