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優勝したら

「この世で一番美味いもの」のアンサーストーリー(?)のようなもの
前述の設定のうち”何かの大会で優勝したことがある”に焦点を絞ったつもり、です(笑)
この頃はいい子だったのに…(’’。
「…父さん。今日の魔導大会、優勝できました」
    そうか」
ぼくが知っている父の姿は、いつもこの背中だ
父さんも、お爺さんも、そのお爺さんも。ぼくの家は代々魔術を納め、それを研究してきた
「それじゃ、約束どおり…!」
「―あぁ   好きにするといい」
「………ありがとう、ございます」
重苦しい空気を閉じ込めるように、書斎の扉を閉めて息を吐く
この家の長男として生まれて、何の疑問もなく自分も魔術師の道を進んできた
いくつもの書を重ねて、喉が枯れるまで詠唱を繰り返して
振り向くことのない父に、その結果を認めて欲しかった。けれど
 
外出用の、厚手の上着。体にしては大きく見える背負い袋に、思いつく限りの道具
それと…父が見れば眉を持ち上げ取り上げてしまうだろう、本
いつも窓から眺めていた、頭の中に描いていた世界に、自分が行けるんだ
心配そうな母と、羨ましそうな弟の視線
扉を開いたら、真っ青な空がどこまでも広がっていた
 
適当な店に入ってみたり、見知らぬ人とすれ違ったり、馬車で乗りあったり
何もかもが新鮮で、刺激的で、自由だった
だから…浮かれていたんだと思う
 
ぐるりと見回しても、どれも同じに見える木々
安易な予測の結果が、これだ
薄くなってくる影は、木陰のせいだけじゃ、ない
焦りが、冷静な判断を鈍らせて、方向もわからないのに進む足が速くなる
 
そして、案の定
「あ、れ…は…」
誰でも知っている。本の中でも何度も出てきた、蛮族の中でも最下層の魔物
相手が子供ひとりと見ると、そいつは下品な笑いを浮かべて近寄ってくる
たった一人の自分にとっては、それが百の腕を持つ巨人にも見えて、尻餅をついてしまって
スタッフを持つ手が震える。詠唱の言葉が出てこない
    とう、さ   !」
 
「………リープ・スラッシュ」
消えそうな叫びをかき消したのは、流れるような詠唱と、斬撃音。蛮族の悲鳴
その人は夕日をはじく金の髪をかき上げて…自分を見て笑った
ただ、その人を見上げていた。恐怖とか、安堵感とか、色々あったけど…なぜか、目が離せなかった
「こんなところに一人でいちゃ、危ないでしょ。早くお家へ帰りなさい?ボウヤ」
その言葉に、はっと我に帰る。家、か…
「はぁ…まさか迷子?こんなところで…」
家に帰って、どうする?また父の背中を見ながら、本に埋もれる?
「あっちに向かって真っ直ぐ行けば、日が暮れるまでには森抜けられれるから」
弟は、ぼくより優秀だ。ぼくの半分の時間で、なんだって覚えてしまう
「…聞いてる?わかった?それじゃ私行くからね?恩なんか気にしなくていいから」
くるりときびすを返して、見せる背中。もう、背中だけ見て生きるのは、嫌だ
その背中を、追いかける
「…はぁ…」
肩口に振り返って、溜息が聞こえて
その背中の速度が、少し遅くなった
「…ボウヤ、名前は?」
 
    。」
咄嗟に出たその単語。今の自分にぴったりで、心の中で苦笑した
Q:さて、では本名は何でしょう?
A:考えてません
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