眠りの草原の向こうで、彼女は忘れていた少女に出会った。


×
『前略、お嬢様へ』



『今回はフェンディルの方の店にお邪魔して来ました。このあたりは年中花が咲き乱れるということで、歩いていても退屈はしません』
他の個体がどうなのかは分かりませんが、私という個体に関しては夢を見ません。
見ない……少なくとも、そのはずでした。
では、睡眠の際にかすかに過ぎる、あの光景は何だったのでしょうか?
 
『前回比で消耗が25%少なく済みました。調整は順調です……』
 
さて、手紙です。初めて目覚めた家で、旅立ってその経緯を書き留め、手紙という形態で遅れという指示を、私は受けています。
恐らく、家の主の口ぶりからは、こういう文章が読みたいわけでもないでしょうが……、
あったことをあったように私の視点で書き留める事しか、私にはできないのですから。
 
「仕方ありませんね。仕方が無い……」
 
自然と表情を翳った物にしていた私です。はて、何を以って残念と思っていたのでしょうか。
面白おかしく語れないこと?
それとも、今のこのような暮らしを?
 
『この店の料理は絶品でした。私の腕で再現できるような物ではありませんでしたから、今度……』
 
どうやら人が夢と呼ぶ代物の中で、私は確かに、誰かと会っていたのです。
ですが、どこの誰で、その人が何をしているのかもまったく判らない。覚えが無い。
そんな人に、食事を共にしようという一文に何の意味があるのか……。
 
「今日は、書けそうにありませんね。明日にしましょうか」
 
……いけません、夢の話と手紙の話が混ざってしまいました。
そこまで書いて紙を丸め、ゴミ箱へ捨てます。
 
 
 
そして彼女は、眠りの草原の向こうで、また彼女に出会う。
古い写真のような光景。
思い出す日は、きっと、遠くない。
 
 
 
おしまい
arch@ヒルデ SW2.0