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人生八転び八起き -ヒューイの場合-
 一人の吟遊詩人、語る。
 
「その者、頭を撫でる温かな手を知らぬ。
 故に己を知らず、魂は虚ろなり。
 人の輪に囲まれながらも、その魂は傍らで淡く微笑む……」
 
 ヒューイ・リビングストン、十六歳男、種族ナイトメア、魔法剣士
 赤いバンダナを額に巻いたあどけない顔の小柄な少年
「チビとか、生え際が危ないとか言うのは禁句っす」
 
 父は失踪、母親は出産の際に死亡、遠縁の親戚夫婦に引き取られ、少年時代を過ごす。
 随分扱いは酷かったらしい。下男のようにこき使われ、犬猫のように軽く扱われる。
 服を脱いだ背中に残る傷跡が、消せない過去の記憶だ。
「別に、恨んじゃいないっす。子沢山で苦しいのに、おいらまで育ててくれたんすから」
 
 十歳の時、魔物に襲われ、親戚の子供達をかばって生死の境をさまよう。
 その事件の際、親戚夫婦の長女が顔に傷を負い、縁談が壊れてしまう。
 長女はショックで寝込んでしまい、目覚めたヒューイは親戚夫婦に"ナイトメアが不幸を呼んだ"とののしられ、怪我が直りきる前に家を追い出される。
「追い出された事より、ただ、守れなかった事だけがショックだったっすよ」
 
 のたれ死ぬ寸前だったヒューイは、幸運にも魔物から助けてくれた元傭兵の老人に引き取られ、従者として暮らす事になる。赤いバンダナを貰ったのもその時だ。
 暮らしは楽ではないが、ヒューイ少年はここで戦いの技術の基礎を学ぶ。
「生きるために強くなれ、ただそれだけを、教えて貰ったっす」
 
 十四歳、傭兵の老人は病に倒れ、看護も甲斐なく亡くなった。
 老人の伝で魔術師の学院に編入、初級魔術科に一年所属後、中途退学する。
 同級生の少年、少女達と共に冒険者の道へ入り、一年を過ごす。
「初恋で、失恋……あの頃は、おいらにとって忘れられない二年間だったっす」
 
 そして、ヒューイ少年の歴史は今に繋がる。
 彼には師匠と呼ぶ人間が十数人いる。だが、正式に師事した相手はわずかだ。
 観察によって他人の技術を盗み、身につける。剣も魔術も限りなく我流だ。
「最近、魔法と剣を組み合わせた魔導剣術っての編み出したんすよ!」
 なお、彼のネーミングセンスについてはコメントを差し控える。
 
 ヒューイ少年は普段、冒険者の店で下働きを務める。
 酒の種類を間違え、転んだ客を支え損ねて潰され、失敗も多い。
 けれど働く姿は一生懸命、全身全霊、本当に頑張っている。
「恩返しっす。お店の主人にはお世話になってるし、依頼が来ない間は暇っすから」
 
 仕事を終え、冒険者達は良く宴会をする。
 騒ぎの輪の中で、大騒ぎする仲間達をヒューイは幸せそうに眺める。
「皆が幸せそうだと、おいらの胸もほわーんってなるっす」
 まるで自分だけはその場に居ないかように、浮かべる笑みは淡い。
 
 冒険中のヒューイは、店の中以上に元気一杯に走り回る。
 皆のために保存食を買いに走り、荷物の中には大きなテントを背負う。
 好んで雑用を背負い込みながら、冒険中のヒューイは本当に幸せそうだ。
「やー、ほら。自分が他人の役に立つって実感出来るのは、嬉しいじゃないっすか」
 
 好きな事、誰かのために働く事。嫌いな事、他人が死ぬ事
 誰かのために働くのは、自分の事を認めて欲しいからだ。
 褒められ、喜ぶのは己が必要とされている事を実感出来たからだ。。
 ヒューイは、他人にとって自分の存在が価値があると思っていない。
「家族とか、そんな絆を守れるから、冒険者って仕事はホントいいっすよね!」
 
 役に立たない人間に、存在意義なんてない。
 幼い頃に刻まれた傷によって、少年の心はずっと欠けたままだった。
「おいら不器用で、鈍感で、ついでに舌足らずっす」
 けれど、繰り返し繰り返し成果を重ね、少年の笑顔は少しずつ満ちていく。
「……でも、おいらようやく、そんな自分が好きになれてきたんすよ」
 走って、転んで、支えられて、立ち上がって、がむしゃらに生きていく。
「前を向いて歩けば、何かが見つかるはずっす、きっと」
 代わりの居る誰かじゃなく、唯一無二のヒューイとしてありたい。
 うまく言葉に出来ないそんな願いを心に抱きながら、少年はただ前へと駆ける。
 
(了)
ヒューイ@ユウ SW2.0