×
妖精と全殺し
別に冒険者に限った訳ではないが、働かざるもの食うべからず、という諺がある。
アタシは今それを実感せざるを得ない状況に居た。
散らかるに任せた部屋の真ん中に横たわって、一言。
 
「……家政婦でも雇うか。住み込みの」
 
そう、金はあるのだ。こちとら自称腕利きの冒険者、一度働きに出れば一年は暮らせるだけの額が手に入る。
ただ元より出不精なアタシは、食事のたびに外に出かけるのすら億劫。
……億劫なことを上げていけばそれこそ星の数を超えてしまうので、この辺にしておこう。
 
 
重たい体を動かして最低限の掃除と食事を済ませた/冒険者の宿の主人に連絡を取る。
もちろん外に出るのも面倒/魔動機文明時代の叡智―――通話のピアスを使うことにする/引きこもりには実に有用な交流手段/ビバ魔動機文明。
依頼の有無の確認/あったので内容を確認/盗賊団退治らしい/しばし思案/受諾。
小道具の確認―――対刃繊維コート良し/二丁拳銃良し/銃弾類よし/その他小物良し。
「ま、たまには人の役に立つ仕事もしないとね―――」
真赤な嘘/単純に金銭と暴力を振るう機会が欲しいだけ/ストレス解消が主目的という困ったちゃん。
 
 
耳を強かに打つ轟音/明らかに音だけなら大砲の砲火/とても片手で扱う拳銃から放たれているとは思えない/この狭い室内でよりによって散弾。
明らかに痛そう/それ以上に無駄に凶悪な外観/曰く反動を吸収するために大型化しまくった銃身/本当かどうかは不明。
それを女の細腕がブレなく支えている事実/しかも両手/威圧感だけはばっちり。
盗賊団の首領/遅れて左右を見渡す/散弾が荒れ狂った室内/四回の銃声の後に挽肉と化した元手下/壁はトマトをぶち撒けたような赤。
対して顔面蒼白/『外した』もの以外全てに襲い掛かる無慈悲/次の瞬間に自分も壁と同化している未来を幻視。
「あんたには聞きたい事があるから外してやった。感謝しな?」
女は長い朱い髪を翻してそう笑う/首領は両手を挙げて降参/武装解除にして簀巻きのち野ざらし/逃げたら銃殺と脅し/督戦隊の気分。
 
ここまで実に、女が根城に踏み込んで数分足らずの出来事。
 
 
「……なんだァ、売れ残りかい?」
部屋の奥/ご丁寧に鉄格子/さらに奥の暗闇に少女/入り口からの光で銀髪金目とかろうじて判る/器量は良いが痩せ過ぎ/粗末な食事が原因かと憶測。
盗賊団が誘拐/にしては放置しすぎでは/額の角を見て合点/ナイトメア―――生まれながらにして穢れを帯びた呪われ人。
「だ、れ……?」
掠れた声/盗賊団の一味ではないと判断されたらしい/確かに女は居なかったようには思う。
 
「……えっと、帰りたいの。おうちに。でも、ここがどこで、家がどこにあったのか、わかんないの」
本気で面倒くさい/でも可愛いしちょっと放っておきたくないかも/ゴスロリとかいかにも似合いそう/半分以上駄目人間の思考。
「まあ、手伝ってやりたい気がないわけではないが、どこか判らんことにはなあ……」
腕組んで思考/官憲に渡す/ナイトメアだしぞんざいに扱われそう/ないわー。
孤児院に熨斗付けて放り込む/ナイトメアだし以下略/やっぱりないわー/以下無限ループ。
 
「……ああもう仕方ない面倒くさい。アンタが自分で探せるようになりなさい、それまでは養ってあげる」
結論/巣立つまで雛を匿うことに/どうしてこうなったという気分。
「……?」
どうしてそうなったというような少女の顔/アタシも判らないんだから仕方ない。
「ただし、条件がある。アタシの家に居る間は家事の一切を担当すること、勝手に居なくなったりしないこと、それから―――」
取ってつけたように/実はちょっと照れくさいこういうの/長らく一匹狼/ついでに生まれてこの方未婚/別にどうでもいいけど。
 
「アンタの、名前はなんてーのよ」
「……イレーネ。イレーネ・コーラルスター、なの。おねーさんは?」
「アタシは”魔弾の砲手””全殺しの”カルロッタ。アンタ……イレーネは、アタシのことをこれから『師匠』と言うように」
「……はい、師匠。……ありがと」
少女―――イレーネは、そういってちいさく頭を下げた。
これが、アタシが長すぎる生涯で唯一取る弟子との、最初の出会い。
 
 
 
「あ、も一つ条件。アンタの着る服についてなんだけど」
「へ?」
こんなやり取りがあったかどうかは、神のみぞ知る。
arch@イレーネ SW2.0