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クイーンにささげるうた
キーン
「あー」
キーン
「あーーー」

アルドレアの商業区のはずれから、奇妙な不協和音が聞こえてくる

キーン
「あーーー…」
「やめいっ」すこーん!
「Σはうあー!?」
鉄琴のバチを手にしたタビットが、眉間をぐりぐりと揉み解す
一方の少女は赤くなった額をさすっていた
「だからルーンフォークはイヤなんだ。女将の頼みだから仕方ないけど…」
「さ、差別はよくないと思うのです…」

ここは音楽教室。子供相手から本格的な呪歌まで間口は広い
ただ、今回は随分相手が悪いようで…

呪歌とは、マナを旋律に織り込み様々な効果を得る技能
それを左右するのは、歌い手の心の力である
タビットは知力に秀でるだけでなく、その精神力も人族のなかでは1,2を争う
一方ルーンフォークは…個体差も大きいとはいえ、一般的に丈夫な割りに鈍く、心の発達も未熟だ

「ちゃんと音をよく聞いて」
懐から音叉を取り出し、弾いて音を鳴らす
それを少女の額に当てると、直接骨に響くのだ
「あーーー………」
しばらくののち。ビリビリと窓が震え始め、再び乾いた音が響くのだった

だが、彼は流石のタビットであった
そのプライドと精神力を持って、1週間できの悪い生徒を指導し続け
なんとかバードの最低限の基礎を叩き込んだのだった

「それじゃ…ようやく呪歌を教えるわけだけど」
「はいっ!よろしくお願いします!!」
「まぁ、キミの声は無駄に能天気だし、基本中の基本たから、”モラル”にしよう」
「モラル!お世話になったことありますよ!」
「あぁそうか、キミは冒険者だったね」
「はいっ!ちょっとでも役に立てるように頑張るのです!」
「それじゃ   

楽譜を渡し、旋律を叩いて聞かせ   
1時間後。外の木陰で休んでいた小鳥たちは一斉に飛び立ち、散歩していた犬がけたたましく吠え出した

「やめいっ!」すこーん!
「Σはうあー!?」
「…なぜ、モラルが”ノイズ”になるんだキミは…」
たちの悪いことに、しっかりと呪歌としての効果が現れている
ある意味才能なのかも、しれないが…
「ビ、ビィに言われても…」
「もう一度。良く音を聞いて。勇気を掻き立てるイメージを持って」
「はいっ!」

   結局、彼女はノイズの呪歌をマスターするに至った

「………発想を変えて、今度は”アンビエント”を試してみよう」
「え、えーと…はいです」
「モラルとは逆に心を落ち着かせるものだ。これならそう被害もないだろう…」
「はい?」
「じゃ、よく聞いて」

1時間後。木陰で休んでいた鳥たちが騒がしく鳴き始め、昼寝していた猫が飛び起きた
「やめいっ!」きーん!
「こ、こんなこともあろうかと、ビートルスキンを!!」
「………」きんきんきんきんきん…!
「ぼ、暴力はんたーい!?」

1分後。ぜーぜーと息を切らしつつうな垂れるタビット
「あ、あの…大丈夫です…?」
「だから、ルーンフォークは…」ぜーはー
「だ、だめでしたー…?」
「ダメも何も、今度は”アーリーバード”…」
「あ、ちゃんと歌えたんですねっ」
「別の呪歌がね…」

「やっぱり、キミにバードは向いてない」
「そ、そんな!ビィはクイーンに歌を…」
「別なものをささげたらどうだい…?」
「はうー………」

まぁ、熱意は認める。バードを普及させたい気持ちも山々だが…

「…しかたない。ラストチャンスだ。あと1曲だけ教えよう」
「本当ですかっ!?ビィ頑張ります!!(ぐっ)」
「で…どれにするか…」
ぱらぱらと初級呪歌リストを眺めてみる
「あ、ビィこれがいいですっ」
指をさしたのは”レジスタンス”。まぁ…他に比べれば無難な方か
「よし、それじゃ…」

1時間後。木陰の小鳥たちは旋律に合わせ明るい歌声で鳴き、近くを散歩していたおじいさんがスキップで歩いていった

「………驚いた。ちゃんと歌えているね…」
「ほ、本当ですかっ!?」
両手を挙げ、素直に喜ぶルーンフォーク

しかしなぜ…と首をひねる
「…そうか、キミは練技を使えるんだったね」
「はいっ、練技はビィの生命線ですっ(ぐ)」
事実、彼女はその極意を取得するほどに精通している
「なるほど…練技は呼吸法と聞くが…心身を活性化させるレジスタンスとは相性がいいのかもしれないな…」
その分析を、当の本人は首をかしげて聞いていたが

「それじゃ、お祝いにプレゼントをあげよう」
そういって後ろの棚から何かを取り出し、少女の眼前へと差し出す
「…はっ!?」
反射的に額をガードしたが、それを確認して、目を瞬かせる
「…鳥さん?」
「キミのパートナーだよ。大事にするんだよ?」
「Pi!」
それは、小さなハチドリ。飛び上がるとしばし彼女の周りをホバリングし…頭の上へと止まった
「なるほど。確かに鳥の巣みたいだよね、キミの頭」
金髪のショートカットの少女は、それでもどこか嬉しそうだ
「はい、ありがとうございました!またよろしくお願いしますね!」
「それはごめんこうむる…」

そして、嵐のような半月が過ぎていった
こんなに厄介な生徒は初めてだ
「だから、ルーンフォークはイヤなんだ」
タビットの先生は例によって手指がアレなので
弦楽器や管楽器が苦手なんですよ
fail@ルビィ SW2.0