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小魔女たちのお茶会

feat. arch & しぇる
「おばあちゃま」
「なんだね、二人揃って」
「東館の客間を使ってもいい? って聞きに来たの」
「いいけど、お掃除が大変だよ。何をするんだい」
「決まってるじゃない、お茶会よ」
「お茶会? ままごとじゃあなさそうだね。誰かお呼びするのかい」
「そうね、あの子を」
 
「アルジュ……あんたの見立てはさすがだねえ」
 当主はアイテム鑑定眼に優れた『魔女』の最近拾ってきたものを思い出し、くふくふと笑った。
 
「ベッツィは……すごいのね」
「何がよ?」
「あんな……おばあちゃまの前ではきはき話せるなんて」
「何言ってんのよリゼットあんたのほうこそおばあちゃまに直接魔法習ってるんでしょう。あたしからしたらそっちの方が、ないわ」
「ないわ?」
「……尊敬するってことよ」
「……そ、そんなことないけど」
 そんなこと言い合っている間に目的の部屋の前に着いた。東館の客間ではない。
 客間にほど近い、アルジュの研究室から繋がる仮眠室の扉をベッツィは力強く開け放った。
「暗っ。あんた、エリーゼ、目悪くするわよ」
 つかつかと中に入り込むと、中庭に面した窓のカーテンを思い切り引き開ける。
「ランプの明かりだけで本を読んでるとお母様がそう言うもの」
 振り返れば、簡素なベッドの上で、与えられたばかりのマギスフィアの映し出す『練習問題』を相手に声ならぬ問答を繰り返していた少女が、瞬いた。
 年の頃は二人と同じぐらいだ。
「リゼットの魔法の灯りならもうちょっといい感じなんだけどね」
 ベッツィは太陽の光を背にふんぞり返る。
「あ、あぁ、点けましょうか?」
「いいわ、今そういう話じゃないもの。
 エリーゼ、お茶会するわよ。いらっしゃい」
 
 二人の娘に連れられて、その『少女』は客間の入り口に立っていた。
「……埃が、いっぱい」
「そうよ。何しろ何年も使ってなかったんですもの、今からお掃除するのよ。
 エリーゼあんたも手伝うのよ」
「わた……し?」
「当たり前じゃない。掃除ぐらいはできるわよね?」
「あのっ、お道具なら全員の分用意しましたから」
「…………」
 少女は渡されたはたきをまるで不思議な生き物でも見るような目でしばらく眺めたあと、
 おもむろに目の前の小卓の埃を振り払った。
「……けほっ、けほっ」
「……けほっ、払うときは先に言いなさいよ! あと、上からやんのよ、せっかく下きれいにしてもシャンデリアの埃が落ちてきたらしょうがないじゃない!」
「ご、ごめんなさい……」
 
 “シャンデリアの埃”にいたるまできれいに──この館には少女でも使えるような脚立とかゴーレムとか追及しちゃいけないお道具とかがいっぱいあるのだ──磨き上げた後、ベッツィは満足げに女主人の席に着いていた。
「エリーゼ、もっとシフォンケーキはどう? それからこっちのクッキーはリゼットが焼いたのよ。この子、こういう感じの台所仕事はすっごく得意なんだから」
「そ、そんなでもありません……でもクッキーは、ほんとによく焼けたので、ぜひ」
「ありがとう」
 二人が熱心に勧めるお菓子やお茶はほんとうに美味しかった。でも、エリーゼは、ほんとは。
 一つだけ。
「どうしたの、エリーゼ?」
「……あの、ごめんなさい。
 私のことは、『テア』と呼んでくれませんか」
「テア? あなたの、真名ですか?」
「短くて呼びやすいいい名前じゃない。でもどうして?」
「……お父さんが、私に遺してくれたもののひとつだから」
「そうですか……」
「そっか、あんたリゼットと同じだったわね」
「……同じ?」
「……えっと、私も……父様と母様と、兄様がいなくなってしまったんです」
 リゼットは微笑を浮かべ、教える。テアはその微笑の裏に、ベッツィの言うような自分と同じものをたしかに感じ取った。
 単なる喪失感だけではない、決心にも似たそれ。
「じゃ、あんたもそのうちお父さん捜しに出るのね。
 いいじゃない。リゼットのご家族捜しもテアのお父さん捜しも、あたしが手伝って上げるわ」
「……ほんとうに? ……いいんですか、捜しに出ても?」
「もちろんじゃない。そうよね、リゼット」
「ええ。……ベッツィが手伝ってくれるなら、百人力ですよ、テア」
 後にこの時の約束を忘れたのかそれとも逆にもの凄い信頼があったのか、二人はベッツィを置いて旅に出てしまい、残された彼女は死にものぐるいで追いかける羽目になるのだが、それはまた別の話である。
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紫嶋桜花@リゼット&ベッツィ&テア SW2.0