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Saxifrage

 ん……いいとこに来たね。まあ、座ってよ。
 一緒に飲まない? ……しけた面してちゃ酒が不味くなるって? まあ、そう言わずにさ。おごるから。
 向こうはまだ盛り上がってんのかな? うんうん、ほんとよかったよね。他人事ながら私もやきもきさせられたしさー…… とにかくこうやって、幸せな子が増えるのは嬉しいことだと思うよ。
 じゃあこんな隅に引っ込んでるんじゃないよ、って? そうなんだけどさ。なんて言うか……
 いや、別に気兼ねとかじゃないよ。……え? いやいや、それはない、ほんとない。むしろその、ないのが気になるぐらいっていうか、……あー、別にいいけど。
 
 じゃあ逆に聞くけどさ、君にとって伴侶とか家族って、いったいナニ?
 ふんふん……いやあ、私も無理に聞こうっていうんじゃないから。
 私? 私にとっての家族って言うと……あれかな、
 深い森の村の隅に立てられた小さな墓標。
 私はたぶん3歳になったばっかりぐらいでさ、おばあちゃんに手を引かれて、一度だけ参ったことがあって、今思えばあんな山奥に老人とガキが行くのはすごいしんどかっただろうなって感じなんだけどね。
 白い石で、まだ新しくて、ちょうど少し前から雪が降ってて、村の家の屋根とかうっすら白くなってるのね。
 おばあちゃんの表情は覚えてない、私もこのお墓の下に入ってるのが誰なんだとかそういうことは多分理解してなかったと思うんだけど、なんかすごい大事なことなんだろうと思って神妙にしてた。寒かったけど。
 
……いや、ごめん引いた? や、同情されたかったわけじゃないから。
 うん、飲んでるよ、見ればわかるでしょ?(笑)
 おばあちゃんは好きだったよ、たぶん。って言うのはあんまり覚えてないからなんだけどね。
 家はそんな大きくなかったけど本ばかりいっぱいあって、いつも読んでたのがきっと今の私の本好きの由来で、子供向けのとかが並んでたわけじゃないんだけど……あ、少しはあったな…… あれは多分お母さんのだったんだろうなー。
 おじいちゃんって人は学者さんだったよーだ。で、私のお母さんがラーダ神官。
 シルヴィアって名前で、その名の通り銀髪の女の子…… いや、書斎に絵があってね。あれ今どこ行ったんだろうなぁ……。……その人が大きくなってエルフと駆け落ちしてね、まぁその辺は詳しいこと知らないんだけど。
 二人とも私が赤ちゃんの時に死んでさ。なんかさっきの村がモンスターに襲われた時、とかいう感じだったかな。別に私が聞かされたわけじゃなくて、大人の会話からなんとなくそうかな、って思ってるだけだからわかんない。おばあちゃんならちゃんと教えてくれたと思うんだけどね。
 おばあちゃんのところには5年ぐらいいたと思うよ。私が5歳かそこらの頃に死んじゃってね。
 
 酒進んでないねー?(笑) いや、俺の酒が飲めないのかーとか言うつもりはないけどさ、せっかくなんだから飲んできなよ。え、それから? うーん……おもしろい話じゃないけど。
 それでまあ人間の親戚のところに引き取られるわけになってさ、でもそもそも駆け落ち? なんてした娘の子供だからただでさえ外聞悪いのに、これ(耳を触る)でしょ。
……何回か家変わったかな。引っ越しとかじゃなくて、身を寄せる家がね。
 で、結局どっかのお大尽様が売名も兼ねてやってる孤児院に入ることになってさ。神殿とかもこの耳じゃ、ね。遺産とかあったと思うんだけど多分養育費とかいって全部あれなんだろうなー。まあ、いいけど。
 孤児院には12歳までいたよ。だいたいその辺になると、働き口を探してるところに斡旋されるんだけどさ。
 そういう募集の中に、魔術師の小間使いっていうのがあったわけね。孤児院には私が面白いって思うような本はなかったから、もしかしたら……と扉を叩いたのが今の私の始まりなのさ。
 
 門前の小僧、って言葉知ってる?(笑) それをまさに私はやったんだな。
 杖を貰うまでに3年かな。で、その直後ぐらいに師匠が学院を出ちゃってね、一年は真面目に留守番してたんだけど、そのうち便りも途絶えたから飽きて、月光華亭に至るというわけだ。
 それが16の頃で、半年ぐらいお世話になった頃に師匠探し当ててね。それ以来師匠にくっついてオランにいます、という感じ。
 月光華亭にはかれこれ十年居座ってることになるのかな。ん、そうだね、あんまり変わってないね、雰囲気とか。アットホームっていうのはよく言われてると思うけど、私も感じてるところだし……
 
……いや、それはないな。君はそー感じるの? ふぅん。
 君は、君のことが一番親しい相手って言ってくれる子がいるのかな? いや、答えなくていいよ。
 そうだね、師匠もやっぱりつかみ所ないし、リージャだってあれでしょ?(笑) だから、そういう風には思わない。
 だから今でもそうだし、これからも私にとって家族っていうのは雪の中の墓標であり続けるんだろうね。きっと人生のどこかで、私は大事なものをあの土の下に一緒に埋めてきてしまったんだ。
 哀しい、さみしいと思う夜もある。
 でも今日なんかは、むしろ情けないと思うかもね。
 酒のせいだって? ふふふ、君は私のことを知らないね。
 いや、わからなくていいよ、そのままでもきっと困らない。……そうだね、向こうに行って飲み直すなら、このボトルをあの子たちに持って行ってくれないかな?
 ささやかなお祝いだよ、ってね。
“ユキノシタ” 花言葉:切実な愛情・軽口・etc.
数年前に書いたお話でした。
くっ……救援は……ハーフエルフを幸せにしようの会は……まだか……!
紫嶋桜花@ネリア SWRPG