×
遠い昔話
……それじゃ、いまからちょっとした昔話をしてあげようか。
もう、気の遠くなるほど、昔の話を、ね。
 
あるところに、帰る場所を失った男がいたんだ。
故郷の村を、『蛮族』と呼ばれる者たちによって、焼かれてしまった男が。
行くあても、頼るところも、帰るところも……何もかも奪われた男は、蛮族たちへ強い憎しみを抱いたんだよ。
けれど、非力で、何一つ変える力を持たない彼は、ただただ憎しみと共に、生きることしか出来なかったんだ。
 
どれくらい長い時をそうやって過ごしたか、考えるのも面倒になってきた頃のこと。
情けないことに、彼は空腹で倒れて……気が付いたら、目の前には荒くれ蛮族どもが。
けれど、殺されることを覚悟した彼にかけられたのは……至極意外な言葉だったんだ。
 
「よう、エルフの兄ちゃん。やっと目が覚めたのか?」
「坊ちゃんのおかげで、命拾いしたな」
 
どうやら、エレミアと呼ばれる『新しい』砂漠の国に、盗賊ギルドとかいうよくわからない組織ができたらしくて。
彼はその組織の坊ちゃんと、手下ども……『蛮族』たちに、命を救われたんだ。
信じられずに呆然としていると、真っ直ぐな対の瞳が、好奇心旺盛な輝きで問いかけたのさ。
 
「なあ、兄ちゃん。エルフなら、いろんなことを知ってるんだろ? オレに聞かせてよ」
 
少年の瞳は、よろしくなさそうな組織の子供とは思えないほど、純粋で透き通っていて。
彼はつい、これまでに見てきたもの、やってきたこと、思ったこと……いろんなことを話していた。
おそらくは外の世界を見たことなどなさそうな少年は、心から喜んで、お返しに色んな話をしてくれたんだよ。
そして……彼は、坊ちゃんに偉く気に入られ、盗賊ギルドとやらにご招待されることになってしまったんだ。
 
それからしばらくの間、彼は坊ちゃんの世話係のようなことを勤めることになった。
自分が見てきたもの、きいてきたこと、経験したこと…この時代にない知識、記憶、風習は、えらく歓迎されてね。
そうしているうちに、彼には『伝えること』が楽しく感じられるようになってきたんだよ。
そんなとき、出会ったのが…そう、『詩』だった。
 
詩に出会った彼は、『伝えること』を愛せるようになった。
多くのものを知り、聞き、見たいと願うようになった。
……願いの通り生きていくうちに、ようやく気が付いたんだ。
世界は、魔法の時代から、剣の時代へ移り変わってしまったんだ、と。
かつて蛮族と呼ばれていた人々の子孫が、国をを作り、歴史を紡ぎ、多くの物語を生み出しているんだ、と。
それを悟ったとき……同時に、彼の中にあった憎しみが解けてしまっていることにも、気が付いた。
いつのまにか、彼は蛮族……いいや、『人』を、愛せるようになっていたんだね。
 
かつて世話になった少年を、静かに見送ったとき。彼はこう思ったんだ。
人も、歴史も、何もかも流れてゆくけど……その想いを、できるかぎり繋ぎ止めてあげたい、って。
痛みや、苦しみや、喜びや……そのとき確かに在った人の心を、今を生きる人々に伝えること。
それは、永い永い時を生きることが許された、『エルフにしかできない』天職なんじゃないか……ってね?
 
さて……昔話はこれでおしまい。
そろそろ本題、僕の詩を聞いておくれ。
今日の演目は……そうだね、「盗賊の家に生まれながら、英雄を目指した少年の話」なんて、どう?
なんとなく頭にあった死に設定が、こんな形で昇華できて良かったです(笑)。尚、盗賊ギルドは現在、彼への特別扱いなどはしておりません(´¬`)
小日向瑞穂@ラフィナート SWRPG