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振り返る、道
「どうしたものかなあ」
天井を仰いで、少女はぼやいた。
 
供養したテルビューチェは3本になります。あの短剣は鋭いのはいいのですが、力任せに振るにはいかんせん脆すぎました。
使ったマテリアルカードは数知れず。安物とはいえ塵も積もれば何とやらと言いまして。
とかく金が必要なこの状況、どんどん消耗品で薄くなっていく財布。能力値増強の指輪やら腕輪やら、あれもいけない。
命あっての物種とはいえ、必要な金額には遥か遠く―――
 
―――しめて25000ガメル。
所謂、「首切り刀」のお代になります。
 
 
身の丈に合った持ち物だとは、さすがにぼくにも思えませんが。
父の形見を取り返すことくらい、子として願うのは当然のことでしょう?
 
 
しかしながら、こう。
一見してちょっと好いかな、と思ったのが。
今にして思えば、親子共々最大の過ちかなあと。
 
 
「―――リン、今日からうちの門下生になった―――君だ」
「よろしくお願いします」
 
そもそも彼がどういうつもりで道場に近づいたのか―――今になっては知るすべもありませんが。
 
折り目正しい姿は決して嫌いではありませんでした。剣に打ち込むさまに、惹かれなかったわけでもありません。
しかし、彼が入門して程なくして、ごろつきまがいの入門が増え、
人が良い父は門を広く開け放っており、道場がごろつきの溜まり場と化すのにそこまで時間は掛かりませんでした。
父は日に日に衰えてゆき、臥せってからは父の血判の入った文を掲げ彼が道場を仕切り、ごろつきは彼にのみ従うようになり。
 
挙句、父が常に腰に差していた刀は、気付いたときには質屋の壁の装飾の一部となっておりましたので。
 
―――漸く、ぼくにも薄らぼんやりとからくりが見えてきました。
最初から、仕組まれたものだったのだと。
 
父は今わの際に、ぼくにだけ、こう告げました。
「済まない」と―――。
 
長かった母上譲りの黒髪をばっさり切りまして、旅装束には少年めいたものを選び―――それまでのわたしの全てにさよならを告げ。
ぼくはひっそりと、生まれ育った家をあとにしたのです。
 
 
―――お嬢ちゃんがこれだけ揃えてくれりゃ、そん時ゃぽんとくれてやるよ―――
質屋の人を食った笑顔を思い出します。
怒りは時として行動を起こす力にもなりますが、長く持ち続ければそれだけ淀むもので。
初志を貫くことがいかに難しいかは、古今東西共通の語り草であり。
 
 
それでも。
今に揃えて払ってやるんですから。そして、父上の刀と道場を取り戻します。
 
 
もはや何度目かも分からない決意と、薄っぺらい財布を胸に仕舞い、短刀と長剣を腰に、リンは席を立った。
髪は、今も短いままだ。
リン@arch SW2.0