――少年は忘れない。全てを失ったあの日の事を――

×
故郷を失くした日



少年は目の前にある光景が信じられなかった…。いや、信じたくなかった。
 
村の、あちらこちらにある石造りの家が悉く崩れている。
仲の良かった友人、親しかった村人、少年の同胞の何人もが道に倒れ臥していた。
 
少年はその日、早朝から麓にある人間の街まで行っていた。
少年の末の妹が昨晩から高熱にかかり、その薬を買いに行っていたのだ。
村と街とを往復する間に、生まれ育った村の風景は一変してしまっていた。
 
目の前の余りにも信じがたい現実に、呆然と歩く少年。
その目に飛び込んできたのは、見慣れた小さな石造りの家だった。
家の前では少年の父や母、兄や妹がすでにこときれて倒れている。
 
その姿を見て我に返った途端、全身の血が沸騰し逆流した。
家族が殺されている。
あの父も。
少年の武芸の手ほどきは父によるものだった。
ドワーフの戦士として、父は決して弱くはなかった。
むしろ村一番の戦士といっても過言ではなかった。
その父を、家族を殺したモノ……それは、蛮族だ。
 
「うあぁぁぁぁーーーー!」
まだ小さな体の少年の槌を握る手に、初めて強い力が通った。
その叫びを聞いて少年を見つけた、1匹の蛮族が歩み寄ってくる。
ゴブリン――蛮族では最下級といってもいい存在だが、まだ幼い少年には充分すぎる相手だった。
「キシャー」小さな獲物を見つけたゴブリンは、嬉々として剣を少年に振り下ろす。
「………!」少年はそれをかわそうともせず、左肩で受け止めた。
――ぶすり
剣が肩に刺さるが、怒りに身を任せる少年は痛みを感じない。
そして渾身の力で槌をゴブリンの頭めがけて打ちつけた。
ゴブリンを絶命させるには充分な一撃だった。
 
そのゴブリンが来た方向から、今度は巨大な体躯の蛮族が姿を現す。
トロール。
ゴブリンなどとは桁が違う。……違いすぎる。その大きさもヒシヒシと伝わってくる強さも。
だが、少年は怯まなかった。いや、怯む余裕すらなかった。
目の前にある破壊の限りを尽くした現実に、激しい怒りの衝撃で身も心もいっぱいっぱいだったのだ。
初めてみる巨躯の蛮族。そんな相手を前にしても、ただ倒すという事しか頭に浮かばなかった。
どうやって倒すのか、自分が敵う相手かどうか、そんなことさえ考えることもできず、猛進する寸前。
「君、下がりなさい!」
少年を背に庇うように、今にも飛び掛ってきそうな蛮族と少年との間に立った一人の戦士。
手には剣と盾を構えている。その盾にはザイアの聖印が描かれていた。
「遅くなって申し訳ない。私はザイアの神官戦士だ」
その戦士の後ろから続々と駆けつける人の足音。
「神々の盾、偉大なる騎士神ザイアの名の下に――汝ら蛮族を打ち滅ぼさん! エルシド、参るー!」
 
「ザ、ザイアの神官戦士…?」
その姿を見て緊張が解けたのか、少年から全身の力が抜けた。
左肩には先程のゴブリンから受けた剣がまだ刺さったままだった。
そこからは夥しいほどの血が流れていた。
「…な、なんで、今ごろ。…遅い、よ」そう呟くと少年は気を失って倒れた。
 
レガリア王国の西方に位置するドワーフの村“ゼン”
突如、蛮族に襲撃され、救援が駆けつけるも間に合わず、壊滅。
確認された生存者はたった1名。“ロブロイ”という10歳の少年。
 
          ――了――
タイレン@ロブロイ SW2.0