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流れゆくものたち
ん、昔の事?
聞いても面白くないと思うけど、いい?
 
んー、一番昔のことだと……母さんが生きてた頃かな。
ああ、母さんは、もう死んじゃってる。
父さんは、傭兵団の団長だったんだ。だから、いつも家は母さんと二人。
でも、母さんも体は強くなくてね。流行病で、こう。
 
寂しくは……あった、かな。でも、悲しくはなかった、かな?
うーん、よく覚えてないや、その時のことは。
……うん、忘れちゃったんだと思う。
……忘れられた、のかもしれないけど。
 
しばらく、一人でぼんやり生きてた。
お隣さんとかの世話になってた気もするけど。
で、ある時、父さんが帰ってきた。
「死んだのか」って一言だけ聞いてきた。
「うん」てだけ、言った。
それだけ。
 
そのあとは父さんの傭兵団にいたよ。
うん、傭兵団だから、戦争とかに行くんだ。
「砂塵旗」って聞いたことある?
このバンダナ、茶色いでしょ?
こんな風に、泥で染めた布を、武器と、体に巻くのが団の旗の代わり。
それなりに有名だったみたい。強かったしね。まあ、僕から見てだけど。
 
僕の役目は、戦利品の回収と、死に損ないのトドメ刺し。
まあ、こうほうぶたい、ってやつ?
それなりに……役に立ってたのかな……
みんないい人だったからね、足手まといでも、そう言わなかっただけかも。
 
覚えてるのは、ガルドラ兄さんと、バドラック兄さん、ルフェイン兄さんかな。
ガルドラ兄さんは双剣使いで、いつも真っ先に突っ込んでいくんだ。
すごい頑丈そうな鎧着てるんだけど、それも傷だらけ。
冒険者やってると、ガルドラ兄さんに似てる人が多くて、驚くね……(笑)
うん、嬉しい気持ちもある。ガルドラ兄さんは頼りになったし。
両手に武器をもつやり方を教えてくれたのは、ガルドラ兄さんだったしね。
冗談も得意だったし。
欠点はお酒に弱いのと、すけべえだったことかな。
そう!すっごくすけべえ!
近くに街があるとすぐ夜中、そーゆー店に出かけていっちゃうの。
で、僕には「強くなるために幻獣と儀式していくんだ」って言うんだよ!?
ずっと本気でそう信じてたよ!
……思い出した。一度「僕も幻獣と儀式する!」っていったら、周りには笑われるわ、父さんには殴られるわ、ひどい目にあったよ!
 
バドラック兄さんは、槍使いだった。
それもすっごいでっかい槍を振り回すの。体つきはガルドラ兄さんほどじゃないのに。
で、その槍がまたすごくてね。魔法の力を込めて突き出すの。
うん、僕もそのやり方、少しだけ教えてもらった。最近、やっと少しだけできるようになったよ……
ほかには、すっごい物知りだった。いろんな言葉、教えてくれたし。
……なんか、最近クーロに、ちょっとだけ違うっていつも言われてるけど。
なんか、本がいっぱいあるところの護衛してたんだって、昔。
作戦立てるのとかも好きだったね。交渉とか、父さんとバドラック兄さんの役目。
一度も連れて行ってもらったことはないけども。
 
ルフェイン兄さんは銃が得意だった。
それも、敵を狙い撃つよりも、遠くから味方に治癒の弾丸を撃つことが多かったかな。
うちの団は、癒し手みたいな人が少なかったからね。
で、たまに、敵にもぱきゅーん、て撃つの。
そうそう、このマギスフィアはルフェイン兄さんの形見なんだ。
簡単な魔動機学の仕組みはルフェイン兄さんが教えてくれた。
僕は頭があまりよくないから、覚えるのにすっごく時間がかかったけどね。
今は、ルフェイン兄さんの技も少しだけ使える……うん。
 
可愛がってもらったよ。他のみんなにも。
今思うと、本当に恵まれていた環境だったんだと思う。
あの戦いがなかったら、今も傭兵してたのかもね。
 
うん、負けたんだ。あのときは。それもボロボロに。
バドラック兄さんが立てた奇襲計画だったんだけど、それが敵に漏れててね。
一番最初にやられたのが、ルフェイン兄さんだった。
僕は後の方、ルフェイン兄さんの近くにいたんだ。
あっという間。いつもみたいに銃を構えていた兄さんは、あっという間に矢ぶすまにされて、それっきり。
僕は小さかったから見逃してもらえたのかな。……違うね。
敵が、狙う価値がない、まずは凄腕の射手からだ、って思って、見逃したんだろうね。
間接的にルフェイン兄さんに助けてもらったんだ。
 
ルフェイン兄さんは、最期にこう言ったよ。
「みんなに、これは罠だ、逃げろ、って伝えるんだ」
そして、僕にこのマギスフィアを握らせたんだ。
 
走ったよ。全力で。泣いてはいなかったと思う。
でも、頭の中、からっぽで。ずっと、叫んでた。
「罠だ、ルフェイン兄さんがやられた!」って。
 
覚えてる。それを聞いたバドラック兄さんが、敵に向かって突っ込んでいったんだ。
「俺が殿になる。みんな引け」って。
父さんの判断は早かった。包囲された中、残った団員を連れて、すぐに突撃の陣形を組んだ。
バドラック兄さんは、すごかったよ。二人相手に押し勝って、魔法をかけられても耐えて。
最後は、炎に包まれたまま、もうひとりを串刺しにしてた。
作戦失敗の責任をとろうとしたのかな。今ならそう思うよ。
 
なんでそんなにのんびり見てたの?って?
子供の足だよ?その場に取り残されちゃったんだよ。
うん、死んだと思ってた。あー、こうやって死ぬんだーって。
そしたら、ガルドラ兄さんが、無理やり、こう、僕を背負ってくれてね。
ボロボロなのにね……普段「傭兵は自分のことだけ考えればいい」って言ってたのにね。
 
気がついたら、燃える森から随分離れたところにいた。
足元には、ボロボロのガルドラ兄さんが倒れてた。
で、僕に言うんだ。
「もう助からない、トドメをさしてくれ」って。
うん、刺した。トドメ。苦しまなうように、首の後ろを狙って。
そのとき、は、悲しくは、なかった、と思う。そのときは。
 
結局。団は、なくなった。
壊滅したってことだね。で、全員一度解散して。
残ったメンバーでまた傭兵団を作る、ってことになったんだ。
で、父さんが聞いてきたんだよ。
「お前も戻って来るよな?」って。
なんて言うのかな……そう、すっごい違和感を感じたんだ、そのとき。
 
戻る……ってどこに?
ガルドラ兄さんも、バドラック兄さんも、ルフェイン兄さんも、もういないのに。
 
その時、ルフェイン兄さんの、マギスフィアを握ってたことに気づいてね。
ああ、そこはもう、なにもないなーって。
「もう、そっちには戻らないよ」って父さんに伝えた。
そうしたら、「そうか」って一言だけ言って、また、どっか行っちゃったよ。
 
うん、今でも、悲しく、は、ないのかな。
ガルドラ兄さんの戦い方も、バドラック兄さんの技も、ルフェイン兄さんの術も。
ずっといっしょにあるから。
……なんで、ハンカチをくれるの?
……え?あれ、なんだこれ。
あはは、やだなあ、なんだ、これ、止まらない、はは。
 
でも、こうして、兄さんたちの話、できてよかったよ。
……そうだね今、やっと、そっちに送ってあげられたのかもしれないね。
ずっと、引きとめてたのかもね、僕が、この世界に。
 
うん、きちんとお別れ、しておかないとね。
ありがとう、ガルドラ兄さん、バドラック兄さん、ルフェイン兄さん。
あと……母さん。
ロボは……ロボルは、冒険者として、これから生きていくよ。
……きちんと、泣けるように、なったよ。
 
 
おしまい
あしゆ@ロボル SW2.0