さて最初に、彼の名前はソル・グレン。
リーゼン地方出身の人間族の男性で、齢は21。身長180cm弱、体重70kg台後半。黒い髪と黒い瞳をしている。
冒険者になったのはごくごく最近。それ以前は両親が所属し自身も生まれた時から一緒に居た傭兵団で傭兵をしていた。
前述の通り両親も所属していたし、気の合う友人達にも恵まれた。成人した後も傭兵を続ける気でいたし、実際にそうなった。
 
傭兵団はリーゼン地方、特にかの竜騎士王国や要塞王国と蛮族の戦いに関って生計を立てていたから、仕事が無くて困るようなことはなかった。
剣の腕はまあ人並みだったし、仕事柄か蛮族が戦場で使う言葉も覚えた。
野草の知識や練体についても学んだが、形になったのは少し後。
初陣の後にズボンの洗濯をする羽目になったり、人を斬って新兵のかかる病気になったり、それで何故か友人と殴りあうことになったり…。
一通りのことは経験して、その日もいつもと同じように団長から仕事の説明を受けていた。
 
そして、それがソルの覚えている傭兵団(かぞく)との最後の記憶になる。
 
気が付くと、彼はとある町でぼんやりと座り込んでいた。正気に返って何があったのかを思い出そうとするが、記憶の最後は先の通り。
傭兵組合に出向いて団について聞いてみるが、消息を絶ってから数ヶ月、行方は知れないままと言う。
行方知れずの仲間を探すにしても持っていた財布の中身は心細く、かと言って剣を使う程度しか特技も無い…。
ソルが冒険者の店の扉を叩いた理由は、それがほとんど全てである。
 
日々の仕事をこなし、報酬を得て、余裕が出来れば仕事道具である武具の新調に当てた。
大きな仕事の無いときは、草むしりやペット探しで日銭をかせぐこともある。特に仕事にえり好みをすることはない。
とは言え、最近はこのまま漫然と冒険者を続けることに迷いも出てきた。
冒険者としての生活にも慣れ、腕前の方も一人前と呼んでも恥ずかしくない程度には上がってきた。ふところにも余裕が出来る。
 
そうなると、俄然気になるのが家族でもある傭兵団の行方だ。
実際に戦闘に出る面子だけでも両手両足の指の数に勝っていた傭兵団が、ソルを除いて一人残らず行方知れず。死体も出ていない。
手がかりと言えば、うっすらと記憶に残る『何かとてつもなく恐ろしいこと』があったと言う感覚だけ。
仕事に出る前に友人が「どうせ相手は、ゴブやコボあたりだろう」などと言っていたが…そうではなかったのだろう。
 
「ふぅ……」
 
ソルは、手元で躍らせていたペンを止めると一つ息を吐いた。目線の先の紙には、冒険者を始めてからの日々が記されている。
日記と言うほど詳細ではないが、書いた本人が見れば何があったかを思い出せる程度の記述。
思えば、この手記を書き始めたのは傭兵団のことがあったからだったなと、かつての日々を思い出して嘆息する。
 
「魔法、か」
 
ふと、ソルは手記の一文に目を留めて呟いた。自分は、高レベルの魔法をかけられた可能性がある。と言う一文だ。
冒険者になる前に町で声をかけられて言われたものだが、小難しい理屈やら理論が並んでよく分からなかったおぼえがある。
詳しいことは覚えていないが、リーゼンの地域柄、傭兵団が相対したのは蛮族だろう。そして、高レベルの魔法。
直後に始まった冒険者生活にかまけて忘れていたが、数少ない手がかりになりそうな事柄だった。
 
追ってみるか。
 
そう考えたが運の尽きだった。元より家族同然の人々と血のつながった両親のことでもある。考えてしまえば、止まらなくなった。
目的は高レベルの魔法を行使する蛮族。人族の領域だけに居ては、そうそうお目にかかれない連中だ。
しかし、今のソルは冒険者。
場合によっては蛮地の奥深くまでもぐりこむようなこともあろう。
 
「そろそろ、大きな仕事をしてみるのもいいかもしれないな」
 
つぶやいて口角を上げたその時から、冒険者としてのソル・グレンは始まったと言えるかもしれない。
少なくとも、『仕事だから』と言う理由だけで依頼書を手に取ることはなくなっていった。

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冒険者ソル・グレン



Rakusai@ソル SW2.0