おお神よ、我が信ずる戦いの神グレンダールよ。
貴方はつかの間の日常すら、我に与えてはくださらぬのですか。
数十メートル先でたった一人の少女が大勢の蛮族に囲まれているという情景を見て、
男は神に悪態をついた。

×
死線から拾われた



そのたった数十秒後には、男は蛮族たちを打ち倒し、散り散りに逃亡させて、少女を救っていた。
男には造作も無い事であった。
「運が良かったな、小娘。偶然俺が通りかかってなかったら、お前、死んでたぞ?」
少女は答えない。
「お前…ドワーフか。このあたりに集落は無いはずだ、何処から来たんだ?」
少女は口を開かない。
「おい…俺は一応命の恩人なんだぜ?お・ん・じ・ん。少しは感謝の一つや二つ…」
少女はやっと、口を開けた。
「お主、強いな…」
「あたぼうよ、帝国軍の虎将軍と言えばこの俺様…ん?」
「決めたぞ、お主…いや、主様(あるじさま)、私を使ってたも」
「…ハア?」
「決めたと言ったんじゃ!私は主様の為に働く!いや戦う!だから連れてけ!」
「…帰るか」
「おい聞いているのか!?連れていけ!連れてけー!!」
 
 
単なる偶然だった。自分の上司が鷹狩をするから下見をしに行けという面倒な命令。
部下に任せようにも手が足りず、結局自分で下見に行かざるを得なかった。
そしたら偶然蛮族が居た、そして蛮族に囲まれている少女がいた。
 
男は考えた、自分がいかなかったらあの少女は十中八九死んでいた。
だが少女は命を拾った。偶然とはいえ生き延びた。
そんな運の太い奴、見過ごしたのは少し勿体無いかなと考えた。
しかしまあ、もう会うこともあるまいと、男は少女の事を頭の中から消し去った。
瑣末な出来事に付き合えるほど、男は暇じゃないのだ。
 
1週間後、人手不足を解消するために募集した志願兵の中に、ドワーフの少女の姿があった。
「私はトート、見ての通りの小娘じゃが、きっと立派な兵士になってみせるぞ!」
滿面に笑みを浮かべ、目をキラキラさせて男をずっと見ていた。
男は頭を押さえてため息をついた。
 
翌日、不満気な表情で館を掃除するメイド服を着たドワーフの少女がいた。
「主様の元で働くんじゃ、主様と肩を並べて戦うんじゃ…」
そうつぶやきながら、力いっぱいモップで床をこすっていた。
 
「どうしたらいいんだ?コイツ」
男は考えあぐねていた。
 
おしまい
amasiz@トート SW2.0