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実在したクマのプーさん 2001.01.06作成、2007.02.03追記


クマさんを主人公にしたお話というと、「クマのプーさん」「パディントン」の二つがまず上がりますが、いずれもイギリスで書かれたものです。クマさんと人間が一緒に生活していくという楽しいストーリーですが、普通の日本人には正直「お話だから」と割り切らないと荒唐無稽な感じがすると思います。私は子供の時からテディベアが大好きでプーさんもパディントンも好きですが、そんな感じはやはり持っていました。

ところで、クマのプーさんの背景についてビジュアルに解説した「クマのプーさんと魔法の森へ」(求龍堂)という本があるのですが、プーさんの名前 Winnie The PoohのWinnieとは、ロンドン動物園でその頃人気のあったカナダ生まれの黒クマWinnieの名前にちなんでいると書かれており、同書の34ページには、作者のA.A.ミルンの息子のクリストファー・ロビンがそのウィニーと並んで何かを食べさせている写真が掲載されています。

ロンドン動物園に設置されている、ウィニーを記念したプレートの写真もあり、

Winnie, friendly and famous American black bear, mascot of Princess *** Canadian Regiment, who came to the Zoo in 1914 while her regiment went on to fight in France and who lived here known and loved by many children until her death in 1934. She gave her name to WINNIE-THE-POOH ...

(人懐こく、有名なアメリカクロクマであるウィニーは、カナダ陸軍***王女連隊のマスコットであったが、1914年に同連隊がフランス戦線に出征する時に当ロンドン動物園にやって来て、1934年に亡くなるまで多くの子供たちに愛された。彼女は、かのクマのプーさんにその名前を与えた...)

と刻まれていて、おまけに動物園内に建立されているウィニーの銅像の写真までありまして、いかにウィニーが人気者であったかが偲ばれます。Sheとありますので、ウィニーは女の子だったのですね。

ここで不審に感じるのが「loved」という表現なんですよね。日本では、一番おとなしいツキノワグマでもとても人間と直接遊んだりすることは出来ませんし、ロシアサーカスの芸達者なクマも口輪を嵌めているものです。単に見るだけでは「愛される」という表現は出てこないでしょう。また、カナダの連隊にもともと飼われていたようですが、軍隊にクマ飼育係がいるとも思えないし、どうやって飼っていたのか?いろいろ腑に落ちないことばかりです。


先日、TV東京の「ペット大集合ポチたま」なる番組を見ていましたら、アメリカのハリウッドの、ペットプロダクションで飼育・訓練されている動物たちの様子が映りました。そこに、正に「アメリカクロクマ」と紹介された身長1mくらいの小柄なクマが出てきたので目を見張りましたら、なんとそのクマは日本の若い女性タレントと口輪もなしで並んで立ち、エサを手渡しで貰っていました!少しでも危険があれば、そんな撮影はしないでしょうから、きちんとしつけられたアメリカクロクマは、クマとは言え大型犬と同じくらい安全だということなのでしょう。まさかそんなクマが実在するとは思っていなかったので、目から鱗が落ちた思いでした。

確か、「シートン動物記」の記述だったと思いますが、「アメリカクロクマほど大人しい動物は少ない。彼らが闘うのは、彼らや子供の生命が脅かされた時、例えば我々が暴漢に襲われて抵抗を試みるような時のみである」と書いてあったと思います。クマの中でも特別に温和な性格を有するのがアメリカクロクマなのでしょうね。

特に、ウィニーが人気を集めていた20世紀前半のイギリスでは、アメリカクロクマに対する認識は非常にフレンドリーなものだったので、プーやパディントンの物語が生まれてきたのだろうと思い当たりました。そう言われてみると、アメリカクロクマ(毛の色は、茶色と黒の中間くらい)の体型はプーやパディントンと良く似ているのです。おまけに尻尾がなく、プーに尻尾がないのは正しいのだと分かりました。


2002年4月-5月に、銀座の松屋で「クマのプーさんの世界」という、いわゆるクラシック・プーに焦点を絞った展覧会がありました。ミルンの「クマのプーさん」のモチーフになったクマはお話を書いた作家ミルンの子息のクマ、挿絵のモデルになったのは挿絵画家のシェパードの子息のクマというのは一般に知られていますが、その「シェパードの子息のクマ」のレプリカが展示されていまして、興味深く見ました。当時のドイツ・シュタイフ社の製品で、現存のレプリカもシュタイフ社で製作したとのことです。(2002.05.11追記)


ダーウィンが来た!生き物新伝説という子供向けの教育番組がありますが、5歳の娘が毎週見ています。「今週はアメリカクロクマが登場する」と聞いて、私も見ることにしました。

第37回「危機一髪!木登り名人クロクマ親子)
では、「アメリカクロクマは、林の中でのみ生活し、主食は木の実である。天敵であるグリズリー(ヒグマ。大人のクロクマも敵わない)やコヨーテ(子グマが狙われる)が来ると、敏捷に高い樹の上に登って難を避ける」様子が、「母グマと子グマ2匹の一年間」として描写されていました。なるほど、シートンが言うとおりのようです。また、アメリカクロクマの主なタンパク源は「枯れ木の中に巣を作って住んでいるアリ」と紹介されていました。小動物を捕食することもないようです(「小動物を捕食することはない」と断言されてはいませんでしたが)。

アメリカクロクマは、アメリカ大陸の「林が卓越した地域」のみで生活するため、防御術としての「迅速な木登り」のスキルを有し、かつ林からは決して離れないそうです。一方、ヒグマは森を出ていろいろな地域、獲物になる大型獣がいる草原や海産物が豊富な海浜部に出て行ったので、体が大型化し、攻撃的な性格になったと解説されていました。

自然状態でのアメリカクロクマの生態がよく分かる、優れた番組でした。(2007.02.03追記)


ここで私は考えたのですが、欧州でもロシアでも日本でも、クマというのは「山や野原に住む(やや)獰猛な動物」であり、「間抜けな巨漢」としてカリカチュア的に描写される(例えば、ほら吹き男爵の冒険(原作を最も忠実に訳した岩波文庫版)には間抜けなクマを男爵がトンチで翻弄する場面がたくさん出てきます)ことはあっても、「クマは可愛い動物」という発想はなかったと思います。

欧州人が北米大陸に渡り、アメリカクロクマという「クマの中でもっとも温和な種族」に接したことから、有名なセオドア・ルーズベルト大統領のエピソード、彼のニックネーム「テディ」にちなむといわれるテディベア、「クマのプーさん」や「パディントン」といった「可愛いクマ」という概念が生まれ、欧州や日本といった、「温和なアメリカクロクマ」の存在を直接知らない他地域にも広まったのではないでしょうか。実際、例えば日本ではベビー用品はクマちゃんの絵が描いてあるものばかりです。日本人に馴染みのあるツキノワグマ(最近、人間と接触して事故を起こして捕殺されるニュースが多いですね)やヒグマからは、「愛すべきクマちゃん」というイメージは生まれないのですが。(2007.02.03追記)