Home | Back

「勇気を与える」とは? 2005.03.21


スポーツ選手や漫画誌、ゲーム会社などが、判で押したように「子供に夢を与える」「勇気を与える」ということを言うのを目にします。その実体はというと、「勉強が出来なくてもスポーツ選手になれば一攫千金、億万長者」「実社会ではダメな子供でも、ゲームやネットや漫画の世界では大ヒーロー」とでもいうことでしょうか。常々「これほど偽善的な言葉はない」と苦々しく思っておりました。


トリノ五輪で、フィギュアスケートの安藤美姫選手がどう見てもおかしな選考の結果代表選手に選ばれ、オリンピックの本番では振るわぬ成績に終わりました。これは、安藤選手にむしろ同情すべきと思います。誰もが選ぶべきと感じた中野友加里選手ではなく、全日本選手権での採点を操作してまで安藤選手を送り出したのですから。

しかし、TVのニュースで、安藤選手の在学高校の生徒が(恐らく学校の指示通りに)「トリノで頑張った安藤選手から勇気を貰いました」などと言っているのを見て、非常に違和感を感じました。「勇気を与える」と言う言葉が、実に軽く使い飛ばされているように感じます。


さて、子供が二人いますと、絵本に接する機会が増えます。私自身が子供の時は、絵本の段階をすぐに通過して、5歳の頃から普通の本を読み出したので、絵本というものを実はよく知りませんでした。新鮮な体験がいろいろあります。そうした中で、私が発見した注目すべき本があります。

徳間書店から2004年の秋に出版された
つきよのぼうけん」(文/エインゲルダ・アーディゾーニ、絵/エドワード・アーディゾーニ、訳/なかがわちひろ)
です。

出版社から許可を得て表紙画像を掲載しています。
Text Copyright (c) 1973 by Aingelda Ardizzone
Illustrations Copyright (c) 1973 by Edward Ardizzone


この本、あらすじは

* ある家に、子供たちが大きくなって忘れ去られたお人形が3人いる。ぬいぐるみのクマのダンディ、お人形のケイト、ちびクマのテディ。
* クリスマスの近づいたある日、お母さんはお人形たちをゴミバケツへポイ。
* あきらめないお人形たちは、ゴミバケツの蓋をいっしょうけんめいに開けて、外へ脱出。
* 道ばたで、同じように捨てられたブリキのおもちゃの汽車を発見したお人形たち。汽車に乗って、新しい家を探しに旅に出る。
* いくつもの町や村を通り過ぎたお人形たちは、いつしか夜になって月が出ているのに気づく。心細い。(つきよのぼうけんの由来です)
* 線路の脇に、踏み切り番の家がある。中にはクリスマスツリー。女の子が外を見ている。
* 踏み切りに通りかかったお人形たちを女の子が見つける。これは夢?まこと?
* 女の子はお人形たちを家に迎え入れ、きれいにしてあげる。優しい女の子と、お人形たちはずっと仲良く暮らしました。

というものです。帯のキャッチコピーは「おもちゃの気持ちが分かる子供たちへ/イギリスの巨匠アーティゾーニが孫のために描いた絵本、初邦訳」となっております。


この絵本を読んで、悲しい運命に立ち向かうお人形たちの健気さ、そのお人形たちを優しく迎え入れる女の子の優しさに、不覚にも涙しました。これこそ「子供に勇気を与える」絵本だと思います。勇気を与えられる大人も多いでしょうね。


この絵本、原題はThe Night Ride、イギリスで1973年に出版されたものです。挿絵は水彩画らしく、古きよき時代を感じさせます。Amazon.UKでの検索結果はこれで、今では絶版のようです。ベストセラー絵本というわけではないようですね。この絵本を見つけ出して邦訳した、徳間書店・児童書編集部さんの慧眼に感服します。


徳間書店の児童書ホームページクマがドアを開けて覗いているのは、「と・くま」の洒落なんですね。