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渡辺玲子 NYデビューリサイタル
Sunday Afternon, March 21, 1999, at 3:00
Alice Tully Hall, Lincoln Center, New York City

Last updated Apr 17, 1999

渡辺玲子は、そのキャリアにおける一つのメルクマールとして、1999年3月にニューヨークにおけるデビューリサイタルを行いました。

彼女にとって偉大な一歩であるのは言を待ちませんが、ファンにとっても彼女が世界の檜舞台に上がったのは大変うれしいことです。私が入手した情報を元に、当日の様子を描写させていただきます。行きもせずに見てきたようなことを書くことになりますが、ご容赦下さい。


Reiko Watanabe, Violinist
Sandra Rivers, Pianist

Schubert, Sonata in A major ("Grand Duo") D.574
R. Strauss, Sonata in E-flat major, Op.18
Intermission
Ysaye, Sonata No.6 in E major, Op.27
Copland, Violin Sonata
Waxman, Carmen Fantasy (after Bizet and film score "Humoresque")
encore
Gluck, arr. Kreisler, Melodie
Korngold, Hornpipe (from Much Ado about Nothing, Suite Op.11)


* 当日は小雨模様であった。NYの3月ですから、かなり肌寒い天気だったことでしょう。

* 聴衆の集まりはどうかと気を揉んでいたが、蓋を開けるとほぼ満員となった。

* アリス=タリー・ホールは、定員数は千人程度。内装が美しいホールである。渡辺玲子によると、響きも素晴らしく演奏しやすいホールであったとの事。

* 日本からはペガサスの会の会員が12人駆けつけたが、NY総領事館関係者、NY在住ビジネスマン、ヴァイオリン関係者(中には竹澤恭子と江口玲がいたそうです)など多数が来てくれた。

* また、ジュリアードの学生、教授と思しきアメリカ人も多かった。(ペガサスの会の三浦さんによりますと、客はmostly Americanであり、最前列はアメリカ人の若い人たちで占められていたです)

* 衣装は、金色で格子の織り模様が入った細身のドレスで、後ろのスリットに黒のプリーツが畳み込まれたものです。彼女のお気に入りの衣装なのでしょうね。パンフレットの写真では、ややオリエンタル趣味が勝った演出がなされていたのですが、舞台の上の彼女はシンプルなイメージで自分の存在をアピールできたようです。

* ピアノのリヴァースは、渡辺玲子とのバランスが今一つであったようです。いろいろ事情があったのでしょうね。この辺は、渡辺玲子本人も演奏中に感じていたようですし、NYタイムスの批評でも指摘されていました。

* カルメン・ファンタジーが終わったときには、渡辺玲子が花束攻めに合うと共に、最前列のアメリカ人聴衆が真っ先に立ちあがり、スタンディング・オベイションが起こりました。三浦さんも、「私はずいぶんいろいろなコンサートに行きましたが、あんなにみんなが立ち上がったコンサートというのは記憶にありません」と言われたほど、聴衆の反応は熱狂的であったようです。本当に嬉しいことですね。

* アンコール第一曲のグルック/メロディを弾く際には、渡辺玲子が綺麗な英語で「この曲は、2年前の3月14日に亡くなられたフックス先生に捧げます」と凛とした表情で告げました。

* アンコール二曲目の「ホーンパイプ」は、本プログラムに入れてもいいような白熱の演奏であったとのことです。


The New York Times (Mar 23, 1999) Music Review By Mr. Anthony Tommasini

記事画像


訳:相馬健夫さん(ペガサスの会 幹事代表) 相馬さんが素晴らしい翻訳をして下さいました。私が下手な訳をつけるまでもありませんので、そのまま掲載させて頂きます。
「素晴らしいパワーの名人芸に拍手」

独唱者の伴奏を務めるピアニストはいつも脇役に甘んじて来た。たとえ簡単なシューベルトの歌曲でも、ピアニストの伴奏次第で曲のインパクトが違ってくることを考えると、これは決してフェアなことではない。とは言え、その場合のピアノパートはあくまでも伴奏である。

ところが、代表的なヴァイオリンとピアノのためのソナタでは、両者は対等に演奏するものである。それでも、有名なヴァイオリニストと共演するピアニストの多くは、控えめな役割をもって良しとしている。それにしても、この日曜日の午後、アリス=タリー・ホールで開かれたヴァイオリニスト渡辺玲子のニューヨーク・デビュー・リサイタルでのサンドラ・リヴァースほど遠慮がちなピアニストは見たことがない。プログラムのリヴァースさんの名前まで渡辺さんの4分の1の大きさであった。

東京で生まれ、ジュリアードで腕を磨き、大いなるキャリアをまさに築こうとしている若きヴァイオリニスト渡辺さんが、この場合中心になるのは分かる。彼女の演奏の技巧は素晴らしく、響きは豊かで、ドラマチックなセンスを持っている。その上、彼女は日本音楽財団から最近彼女に貸与されるまで、100年以上も使われていなかった1709年製の高価なストラディヴァリウス、エングルマンを弾いていた。見るからにこの楽器に魅せられているこのヴァイオリニストは、全ての楽節を豊かなトーンと感動的なヴィヴラートの演奏に仕上げていた。時には音楽的効果が効き過ぎた場面もあったが、楽器の響きは素晴らしいものであった。

ところで、特にシューベルトのグランド・デュオやシュトラウスのホ短調ソナタ、さらにコープランドの1942年から43年に作曲されたソナタのように、大事なピアノパートのある曲ではリヴァースさんにも見せ場はあった。リヴァースさんは技術的には優雅な、洞察力のあるピアニストである。ただ、彼女はピアノの蓋を少し開けただけで演奏していたため、今一つ迫力に欠ける所があった。彼女は渡辺さんの音を消さないように気を使っていたようである。恐らく彼女なりの気遣いのせいだろうとは思うが、音楽としてのバランスは失われてしまっていた。

シューベルトの曲で、ヴァイオリンがウンパッパといったパターンで脇役を務めるような箇所でも、渡辺さんの響きの方が、珠玉のようなメロディー部分を弾くリヴァースさんのピアノよりも際立っていた。また、シュトラウスの初期の情熱的なソナタでも、華やかなフィナーレでピアノが雄大な主題を奏する部分において、やはり渡辺さんの伴奏的なアルペッジオの方が目立っていた。コープランドのソナタでは、二人の演奏家の間で繊細なバランスが良く取られていたが、渡辺さんの音楽的に強烈な演奏も良く引き出されていた。

小品ながら、呆れるほど難しいイザイのヴァイオリンソロのためのソナタ6番では、渡辺さんの技巧の素晴らしさが遺憾なく発揮されていた。同様に、映画音楽作曲家のフランツ・ワックスマンによる軽いカルメン・ファンタジーも、渡辺さんの妙技が改めて披露される場となっていた。