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渡辺玲子 インタビュー
「ぶらあぼ」(2003年発行)より

Last Updated Oct 1, 2003

コンサート会場などで配布されている無料情報誌「ぶらあぼ」に、玲子さんのインタビュー記事がありました(2003年の9月号らしいです)。同誌のインターネットサイト上にも記事が載っていましたので、文章だけ転載させて頂きます。非営利ということで、ご了解いただければと思います。


ニューヨークを拠点に世界で活動している渡辺玲子の、2年ぶりのアルバムは、意外にもライヴ録音だ。

本番の舞台で演奏する時、スタジオでは生まれないエネルギーみたいなものが出てくるんです。お客さまと同じ時間を共有することによって、それまで思ってもみなかった自分を表現できることもあります。もちろん、特にチャイコフスキーの音楽では、自分の中で感じ温めてきたものだけでなく、その瞬間瞬間で感じたものを表現することも求められていると思うのです


今回のアルバムではほとんど感じられないが、ライヴ録音にはどうしても「傷」ができてしまうという危険がある。

「傷」よりも生きた演奏を採用したかった、というか、とてもいい音で録れていたので、これでいこう、という感じだったんです


アレクサンドル・ドミトリエフ率いるサンクトペテルブルク交響楽団の来日ツアーでの共演をライヴ録音したのだ。

ロシアのオーケストラと共演させていただくのなら、ぜひロシアの音楽をと思いました。ドミトリエフさんの指揮、サンクトペテルブルク響の演奏ともに、ロシアに根ざしたものが溢れていて、それだけで感激でした。他のオーケストラでは絶対に聴けない音色やサウンド、フレーズの独特な歌い方など、どれもが楽しい経験でした


ファンにとっては待ちに待ったチャイコフスキーのコンチェルト。

チャイコフスキーはそれこそ数えきれないほど弾いてきました。でも、今回は今までにない体験をたくさんしました。第3楽章で、オーケストラからソロ・ヴァイオリンへと同じメロディが受け渡されるところがあるんですが、その絶妙な歌いまわしなど、『ああ、ロシアの音楽ってこういうものなのね』って感動の連続でした。私の持っていない音楽性だけれども、それに支えられ、乗せられて伸び伸びと弾けました。


カップリングは同じくツアーで演奏したショスタコーヴィチの協奏曲第1番。

最近になって彼についての著作がたくさん出てきましたが、非常に苦労した人なんですね。難しい政治体制の中を、精神的に押さえつけられながら生きた。そうして圧縮されたパワーが、音楽に表現されている。爆発するという面ももちろんあるんですが、むしろ、ひとつひとつの音にパワーが凝縮されているという感じなんです。そこには絶望もあるが、動物的な欲望もある。カデンツァなども聴き所ですけれど、とにかく内面的にもスケールの大きい作品だと思います。ショスタコーヴィチについては、交響曲や室内楽も聴き込んで、自分なりに消化してきたつもり。このコンチェルトも、これからはもっともっとスタンダードになっていくと思います


レパートリーの広い彼女だが、今後の大きなコンサート企画としては、2004年のブラームス・シリーズがある。

ブラームスだけでなく、彼の周辺と彼に影響を受けた作曲家を組み合わせていこうと考えています。これも楽しみな企画です。来年は、新しい分野を開拓する年になりそうなんですよ。秋田県が新設する国際教養大学で、音楽史の講義をすることになったんです。一般教養のひとつのコマなので、私の演奏を交えながら話を進めようと考えています。正しくガイダンスをすれば、一般の学生さんたちにもクラシック音楽の深さや豊かさに気づいてもらえると思う。それで、聴衆が少しでも増えたら嬉しい


勉強家の彼女。読書も音楽関係だけでなく、哲学や科学、宇宙論など幅広い。

20代の時はコンサートが終わるとビールを飲んで騒いじゃうことも多かったけれど、30代を迎えて内面をもっと磨かなきゃと思って。もちろん演奏技術も究めていきたいけれど、それで表現するもの、つまり内面的な充実を図りたいんです。もっともっと勉強して飛躍したいんです。


それにはニューヨークという町が必要なのだとか。

自分のペースで暮らせる町。オペラもコンサートも身近にたくさんあるし、本屋も充実している。自分を深めていく時期を迎えて、次の段階に行けるか行けないかは、今の自分の努力次第だと肝に銘じています。


取材・文:堀江昭朗