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渡辺玲子インタビュー ぶらあぼ 2008年8月号より

Last Updated Sep 8, 2008


【新譜この人いちおし】2008年07月16日
〜自身興味があるものを絶妙に並べたヴァイオリン音楽の多彩な世界〜

『絶妙の構成による、風格を湛えた逸品集』とも言うべきだろうか。20年以上にわたってニューヨークを拠点に活躍する実力派ヴァイオリニスト渡辺玲子が、久々の新譜をリリースした。ジャケットも爽やかな本作は、巷間溢れる小品集とは一線を画した、奥深き『中品集』。

『100パーセント自身で選曲した』個性豊かな一作だ。
 
「ここ数年弾いてきた中で、興味があるものをバランス良く並べたらこうなりました。ただ元々が凝り性。何かに興味をもつとその隣は何?と、考えがスパイラルのように広がっていくんです。なので全体の有機的な繋がりももたせています」
 
中でもイチオシは、トリを務めるシマノフスキ編の『カプリース』。かのパガニーニの無伴奏曲にピアノを加えた同版は、実に珍しい。
 
「これはすごく気に入っていて、以前から取り上げています。原曲に伴奏を付けたのではなく、独奏にも手が入った、完全なるシマノフスキの音世界。そこがとても面白いですね」
 
カルメン幻想曲も、サラサーテではなくワックスマン版だ。
 
「10年くらい前からこちらを頻繁に弾いています。他の版に比べてオペラティックに書かれており、各曲の繋がりも有機的で、全体のバランスが良い点が魅力です」
 
ツィゴイネルワイゼンはあまりにポピュラーだが?
 
「私は有名かどうかよりも、自分にとってどういう曲かを考えます。この曲は計画性をもって弾くのではなく、“その瞬間の自分の感情を自然に湧き出させるための音楽”。ヴァイオリンはそうした即興性が、他の楽器よりも強いと思います。『カルメン?』も含めた民族的な2曲で、そんなヴァイオリン特有の魅力を聴いていただければと」
 
一転してレアなクララ・シューマンの「ロマンス」は、夫のロベルトにも通じる美しい音楽だ。
 
「聴きやすくていい曲ですが、こちらはテンポや歌い回しに計画性が必要。2つの楽器の節回しを一致させることも重要です。今回はそれなりにうまく表現できましたし、A-B-A形式の第2曲など、AとB部分の違いの妙を聴き分けるのに、CDはメリットがありますね」
 
神秘的なシマノフスキの「神話」は、近年注目度がアップしている。
 
「様々な音のカラーを醸しながら、ストーリーを見事に表現したトーン・ペインティング。特に2曲目の『ナルシス』は、音にエロティシズムがいっぱい含まれていて、ヴァイオリンはそれを上昇下降しながら表現し、ピアノはアンニュイな感じで流れていきます。これも3曲の微妙なニュアンスを味わうには、CDの方が合っているかもしれません」
 
引く手あまたの名手・江口玲も、彼女の指名だという。
 
「ジュリアードに通った時期が同じなので、もう長い付き合いです。音楽に対して近視眼的にならない、信頼できるピアニスト。曲によっては彼独自の音も加えられています」
 
彼女はこの5年、毎年春に2ヶ月半ほど、秋田の国際教養大学で集中講義を行っている。
 
「音楽が専門でない学生に、『音楽の深さや聴き方』を教えているのですが、思いもよらない意見が出たりするのでとても新鮮。以前と違った生活パターンも経験できますし、今年から畑を借りて色々植えたりもしていますよ」
 
こうした視野の拡大も佳き影響を与えているに違いない。
 
「いま頭の中で新しくやりたいことが形になってきています。もう一度バッハと向き合ってみたいし、大学で教えてきたこともまとめてみたい…」
と語る渡辺玲子。CDともども要注目だ。

取材・文:柴田克彦