【北京からの手紙】@

業界再編による労働問題の露呈

−中国東方航空雲南支社のストライキ事件−

(インターナショナル第180号:2008年6月号掲載)


【リード】中国の動向が、世界の注目を集めるようになって、だいぶ経つ。
 とくに日本では、「アジアの経済大国」日本の地位を脅かすほどの経済成長をとげたことや激しい反日デモへの畏怖と反感を込めて、反対に「東アジア経済圏」や「日中新時代」への漠たる期待を込めて、複雑に交錯する中国への視線がある。
 だがその一方で、中国の実情がなかなか伝えられないもどかしい現実がある。「北京からの手紙」は、そうした実情の一端を知らせてくれるが、今回掲載する手紙は、4月12日に発信されたものである。見出しは編集部で付けた。(編集部)

▼東方航空機の「引き返し」事件

 このところ、中国のテレビや新聞でかなり大きく取り上げられているニュースがありますが、日本では「チベット問題」と「聖火リレー」のニュースにかき消されて、この事件はニュースとしては報道されていないのではないかと思われます。どこかの新聞が、《中国事情》を伝える特集として取り上げているかもしれません。
 それは「中国東方航空雲南支社のストライキ事件」です。
 3月31日、東方航空雲南支社で昆明から大理やシーサンバンナーへ向かった18の便が目的地を目の前にして、その上空から昆明へ引き返したという事件です。
 航空会社は、最初14機だけと発表しており、引き返したのは「天候のせい」だと説明していました。しかし当地の気象台では、「その日、航空機が着陸できないような悪天候ではなかった」と言っているし、他の航空会社の便はすべて目的地へ正常に到着しています。また昆明へ引き返した便は、14便ではなく18便でした。さらに、4月1日にも同社の3便が同様の事態を引き起こしており、パイロットは「前日の行動に対する声援」だと言っています。
 この影響で東方航空雲南支社の多数の便が欠航となって、多くの乗客が空港で足止めになり、チケットの変更や払い戻し、賠償の問題で混乱した模様です。この18便は昆明から麗江行きが5便、シーサンバンナー行きが3便、大理が3便、臨滄が2便、その他5便と、4月1日の3便です。
 しかし、この事件は当初から天候のせいなどではなく、パイロットのストライキだとみられていました。

▼隠れたストライキ

 「南方都市報」によれば、『中国東方航空は、欠航や遅延は「天気の影響によるもの」と説明しているが、ある旅客によれば、原因は操縦士がストライキを起こしており、飛行機を動かせない状態だという。昆明空港に掲示されている〃ダイヤ情報〃には、操縦士の名前が書き換えられた跡があり、ある操縦士によれば、「誰も飛ぼうとしない」という。
 東方航空のある職員によれば、数日前、空港や操縦士の宿舎に、ある〃掲示〃が張り出された。掲示には操縦士の待遇の低さや非人道的な処遇や、ある操縦士の処遇に関する賠償問題などが書かれ、ストライキへの協力が訴えられていた』(「Record china」から)。
 「新京報」は、この事件をニュースのかたちで伝えるというより、4月3日と5日の《論評》コラムの欄で取り上げています。
 それによると、『この事件は、パイロットの非公然のストライキ事件で、パイロットと航空会社との待遇をめぐる問題が表面化したもの』、『パイロットが乗客を〃人質〃にとって管理職や航空会社と談判する手段とするのは許しがたいサボタージュ行為であることは言っておかなければならない』としながらも、『だが、見ておかなければならないのは、この極端な行動の背景には、現在の管理のあり方が航空市場とパイロット労働市場の変化に追いついていないということ。硬直した行政手段を持って統制した結果は、被雇用者を隠れたストライキという極端な方法を通して社会の耳目をひきつけ、問題を解決させようとするだけだ』と問題を指摘しています。
 『またこれは単に当方航空だけの問題ではなく、普遍的な現象である。3月14日には上海の航空会社で40名以上の機長が一斉に病休をとっているし、3月28日には東星航空の11名の機長が一斉に休みを取っている』。
 これも明らかに、隠れた形での集団ストライキと言っていいだろうと思います。

 今回の事件の発端は「税金の問題」だということです。
 雲南支社のスタッフは、給与から従来8%が税として天引きされていたが、3月からは天引き分が20〜30%へと大幅に引き上げられました。しかも会社側は、パイロットに対して、この新しい税率で去年にさかのぼって天引きすることを要求し、その期限を4月7日としたのです。こうして『ある機長の場合は、去年の天引き分が6万元から7万元にも達した』(4月8日「新京報」)。
 これにたいして、同航空の上海本部の従業員については、税金は月給の5%程度に抑えられており、雲南分社スタッフは「これは不公平」と経営陣との話し合いを続けてきたが決着せず、ついにストライキ決行にいたったといいます。
 東方航空雲南支社の前身は、「雲南航空」です。東方航空と合併して分社化されて以来、赤字解消のため管理が強化され、過当勤務が相次ぐなど従業員の不満を招いていました。関与した乗務員が新聞社の取材に応じ、「劣悪な労働条件に耐えかねた短距離路線の乗務員が、やむを得ず起こしたもの」(「Record china」)と語っています。
 しかもある職員によると、「今回の事件は一時的な行為ではなく、長年にわたって蓄積されてきた不満が爆発したのだ」と言っています。彼によると「〃雲南航空〃と〃東方航空〃が合併して以来、東方航空の雲南支社に対する(対応は)待遇面やその他の点で差別的であった」、「合併当初は東方航空の総裁は雲南航空の職員の待遇が悪くなることはないと言っていたが、実際は雲南航空の職員の待遇は合併したとたんに悪くなった」、「一般職員の待遇はほぼ半分になったし、パイロットの賃金も半分とは言わないまでもかなり引き下げられた。だから、パイロットだけではなく、他の職員の不満も大きい」(4月8日「新京報」)と語っています。

▼業界再編と要員の不足

 4月8日の「北京晩報」は、次のように論評しています。
 『この事件は表面的には、税の軽減問題や賃上げ要求と絡んでいると見られているが、深い原因はパイロットの極度の不足にあり、かかる事態を作り出しているのは長年にわたる独占的管理体制の悪弊の結果である』と。
 『民航局の統計によると、目下中国の航空会社で働いているパイロットは全部で1万2千人程度で、国内の700機の飛行機の必要を満たしているだけである。しかもこの1万ちょっとのパイロットのうち1千人くらいはすでに退職年齢に達している』、『民間航空業の発展からすれば、2010年には飛行機台数は1千250機に達するが、今後5年でパイロットは1万人くらい不足することになる』(4月8日「北京晩報」)といいます。
 中国航空業界の、これまでの経緯を見てみます。
 中国では1949年の新中国発足以来、ながらく中国民用航空総局(CAAC)が航空業界の経営、監督を独占してきました。
 1987年の航空行政改革により、経営と監督業務が分離され、経営業務は中国国際航空、中国南方航空、中国東方航空の3社に分割され、市場による競争原理が導入されはじめました。中国民用航空総局は監督業務のみを担当することになったのです。
 その後、地方政府の出資による企業の新規参入もすすみ、最盛期には大小20以上もの航空会社がひしめきあう状況になり、その結果過剰な価格競争に陥るといった弊害が発生したため、巨大グループへの業界再編案が計画・立案され、実行されました。
 巨大グループは、中国民用航空総局直属の中国国際航空、中国南方航空、中国東方航空の3社で、その3社に中小キャリアが吸収される形でグループ化がすすんで行き、今では中国全体の輸送量に占める3グループの割合は7割以上に達しています。

 この事件については、中国の新聞テレビではかなり大きく取り上げられています。そのことを知ってもらうために、最近の「新京報」と「北京晩報」の見出しを書き出してみます。
●4月3日「新京報」第2面 半面の大きさで論評=「パイロットの〃スト〃は何を意味するか」
●4月5日「新京報」第2面 3分の1面の論評=「東方航空〃スト〃事件を徹底調査せよ」
●4月6日「新京報」第3面 3分の1面の論評=「民航局〃東方航空事件〃を調査―東方航空は謝罪、人為的原因であれば厳しく処理」
●4月5日「北京晩報」第3面 3分の1面で、ほぼ同様の論評記事
●4月7日「新京報」第4面 3分の1面の論評=「民航局"東方航空事件"を徹底調査」/「東方航空 またもや上空で引き返し」
●4月7日「北京晩報」第16面で論評=「乗客を〃人質〃にとった〃スト〃違法の疑い」/第19面でニュース=「東方航空またもや上空で引き返す」
 このあとも、「新京報」「北京晩報」ではほとんど毎日のように、ほぼ一面くらいの大きさでこの事件を論評し続けています。東方航空も民航局もこの事件が、天候のせいなどではなく人為的な「引き返し事件」=(実質的スト)と認め、乗客に謝罪するとともに、払い戻し等の乗客への補償、さらに雲南支社の総経理など2人の停職(を行いました)。
 4月9日の「北京晩報」では、「昆明発南京行きの便が6時間遅れ、乗客一人当たり200元が支払われた」といたことが報じられています。

▼経済成長による矛盾の蓄積

 この事件は日本でどのように報道されているのかわかりませんが、わたしが最近の日本の新聞を調べた限り扱われていないようです。しかし、中国の新聞やテレビではかなり大きく取り扱われていますし、いろいろと論評されています。
 これまで、農民問題や、農民工の問題については日本でもいろいろ取り上げられてきましたが、今回のこの事件は中国が抱える問題が、農村・農民問題や農民工の問題といったところから、労働者本体のところにまで問題が広がってきていることの予兆ではないのかという気がします。
 急速な経済成長の中での格差問題、環境問題、資源・エネルギー問題というかたちでは扱われてきましたが、経済成長にともなって膨大にその数を増やしたはずの労働者の問題は、あまり見えてこなかったように思いますが、そこに隠された巨大な矛盾が蓄積されていないはずはないのであって、今回の事件はそういう問題を垣間見せたのではないかという気がします。
 今年2008年のオリンピックと、2010年の上海万博までは、国を挙げての大きなイベントがつづくということで、さまざまな矛盾を表面化させることは引き延ばされていくかもしれませんが、2012年、次の党大会と胡錦濤・温家宝体制から第5世代へ政権が引き継がれてゆく頃には、どんなかたちでこういう問題が表面化していくのか、注目していかなければならないと感じました。

【4月12日】


世界topへ hptopへ