前回までのあらすじ
リンドブルム校長の前に宝条が現れたのは、水のクリスタルの在処を聞くため。
じわりじわり...心に揺さぶりをかけ、直接その口からとまではいかなくとも
シド大百科の写しなるものを手に入れた宝条は
学園から立ち去る前に、息子セフィロスに魔法を唱えさせた。
「デジョン」
吸い込まれていく。何もかも。
近くのものを吸い込みながら、純粋なる黒色が凄い勢いで成長を遂げていく。
まず最初は、多くの観客が見ている中
スタジアム中央から球型のプールと選手達が消えた。
後を追うように、最前列の人間達が頭からフェンスごと飛び出していった。
自分でそういう意識はなかっただろう。
興奮したまま、笑顔で大口を開けながら、ある少女の顔は無に消えていった。
「ぎゃーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」
「あ、あああああ、あぁぁ...あ」
足が動かず、席から立つことが出来ない。そのまま放心状態でいる人。
そしてそのまま無に吸い込まれる。
「助けてェェェエえ」
「おかあさ〜ん!!おかあさ〜
「なにが起こったんでしょうかブラックホールに、突如現れたブラックホールに
人が紙切れのようにぃ
あぁぁぁ早く逃げてください!!!わ、私がこのマイク放送で先導しm
アナウンサーの声が、フェードアウトもなしにブツ切れに消え
視覚だけではなく聴覚からリアルに伝わる恐怖。
だんだんとスタジアム内が静かになっていくのだ。
「ああっ...!!」
例の声援を指揮していた3人家族が、崩れた足場の下に落ちていった。
出口に向けて、階段を下りていく最中に。事を目の前にした男は頭を抱え叫び始めた。
...何故...どうして。
理由を問い詰める猶予もなく。
セシルは震えをとめることが出来なかった。
地獄絵図。
そんな言葉が頭に浮かぶ。楽しいはずの体育祭が...一瞬にして変わってしまった...
足を後ろに進める。
一歩、また一歩。黒色から発せられる重力から逃げるように。
背中がスタジアム後ろの壁にぶつかった。
セシルはそこから飛び降りた...
「クエ〜ーーっ!!!」
ばフっ。
肌に感じたその感触に、現実へと目が覚める。
ボコだ。呼んだ記憶はなかったのに...
タイミングバッチシで見事空中でセシルをキャッチしてくれていた。
黄色でも青でもない、
今度は空を自由に飛び回ることが出来る黒チョコボに進化しているボコ。
キャッチついでに、そのまま飛んでいってくれるかと思いきや...
アララ、普通に地面に着地してしまった。
もちろん一応は扇いでくれましたよ、羽をこう、バッサバッサと。
黒になったからっといって、
そうすぐに飛べるようになるわけではなさそうだった。
「ど、どうしようボコ...
ぜんぶ...全部、いなくなっちゃうよ......」
両手でボコの首回りを抱く。擦れきった声を出した。
ボコは、羽の辺りの簡単な毛づくろいをした後、上目遣いで頭を下げた。
そこにはセシルが良く知る人物が座っていた。
「...アーロン」
「おまえを待っていた」
「またワケわかんないことを...」
今はまだ形となっている花壇から立ち上がるアーロン。
「ついてこい!!」
言うが早いか、こちらには見向きもせずにアーロンは走り出した。
だが逆に、セシルはアーロンの横顔をしっかり見ていた。
「ア、アーロン!その右目の傷、どうしたんだよ!!」
応えは返ってこないまま。
未だ止まない血を振り撒き、スタジアム裏の通りへ駆け抜けていく。
ボコに乗ってしても、その後ろにマークするのがやっとであった。
「......」
「振り向くな!!!」
セシルは歯を食いしばり、フカフカの黒毛の中に顔をうずめた...
地面の下から尚も黒色は成長、侵食し続けているようである。
裏道を出て、運動場が前に広がった。
ここに避難している人もチラホラ見かけた。
ほんの数年前...セシルはこの運動場で遊んでいた。
幼稚園のときに、ローザとウェッジとビックスとでキャンプを張ったこともあった。
一つ一つの遊具に思い出が詰まっていて、だからこそ、それらが無に溶けていくのが
ズガガガガン!!
地面が割れる。
だからこそ自分の思い出が消えていくような気がした。
ふと、聞き覚えのある風が肌に伝わった。遠くの空にセッツァーの飛空艇が見える。
アーロンはそこへ向かおうとしていたのだ。
飛空艇側も、降り立つ場所を探している様子。
しかしここの運動場は...もうダメだ。空の青さえも無に取り込まれつつある。
その時、横から細い一本の影が走った。
1181のダメージ!
それは突然の不意打ちだった。
セシルは無抵抗のままボコの背中から落ちてしまう。砂吹き荒れる大地を何度か転がった。
それに気付かずボコは無心にアーロンの後を追っていく。
そのアーロンの姿も、もうセシルからは見えなくなっていた。
倒れたままで、
セシルは口の中に入った砂利を吐こうともせず
ただ無気力に、消えていく運動場とリンドブルムを両手で掴もうとしていた。
「間違いなくキミを写真の男だと断定する。
これで、わざわざミッドガルまで出向く必要が無くなったな」
そのセリフを聞くまでは。
「誰だよ...」
「敵だ」
刃となった風が男の髪を刎ねた。
「お前がやったのか...なんの罪のないみんなから夢を奪い取ったのは...!」
「風のクリスタル、このツォンが回収させてもらう」
整えられた黒の長髪が、そのままの形で宙に浮いた。
サラリ...
体勢は倒れこんでいく形で
スロー再生のように人差し指を伸ばしてきたかと思うと、指は、目前まで来ていた。
慌てて横に避けるセシル。
始点、終点。途中に掛けるコマを抜かして行ったような動き。
セシルはすぐさまそこでナイトスティックを装備した。
もちろんそれは攻撃のために取り出したのが、しばらく防御のための受け止め道具に。
擦れ合う音が聞こえない。
不思議なことに、武器と武器とがぶつかる感触だけは振動を通じて手に伝わる。
何を相手に戦っているかセシルには分からなかった。
やっと初めてツォンにダメージを与えられそうになるのが3分後。
しかし、今一歩届かずというのはまさにこのことだろう。
突きを決めた棒状の武器は、HITするまで後数センチの間があった。
再度セシルは手に力を入れる...
筒状に伸びた仕込みスティックの先がツォンの腹を狙った。
ここまでが3秒。
ツォンは一瞬一瞬をコマとして見捕らえ、その全てが伸びきる前に腕で棒を撥ね退けた。
大きな轟音が、二人の近くで聞こえた。
最後までセシルは気が付かなかったが
ヒビ割れた地面のせいで、フェンス前に立てられていたナイター照明が倒れてきたのだ。
砂の洪水を全身に浴びる。
似たような事はあちらこちらで起こっていて、
もはや太陽の光は完全に砂煙のせいで遮られてしまっていた。
いや、それ以前に無は、領域内にある光さえも吸い込んでいってるのかもしれない。
気が付けばツォンは近くから姿を消していた。
「...武器とは。
相手を攻撃し、自分を守るためのもの」
低く、重く、それでいて透き通った声が自分に向けられる。
「ならば俺の武器は、この体全体だ」
少し離れた砂煙の中から、両手のひらが薄く形を現した。
「エアロ!!!」
そこにセシルは咄嗟の行動、敵の狙いであるという風のクリスタルの魔法を。
グラウンドに小さな竜巻が発生した。
その中心にあるツォンは、風と共に小粒の砂で即席された壁で自由を失う。
セシルは、ひとまず呼吸を整えた。
すぐに頭上に防御を構える。
横にしたスティックに、硬い何かが当たる振動が残った。
本人の説明とおり、当たったのは間違いなく人の指なのである。
フェンスを伝い、
上から、ダメージを最小限にしてエアロから脱出したツォンは
無駄な動きなくセシルに攻撃を加え始めた。
5×2本の指は、ピアノを奏でるがごとく滑らかに。時には激しく風の中を走った。
セシルは考えることが出来なくなっていた。
頭の中は、さっきからずっと真っ白で...感覚だけで動いているといった状態。
「ハァ...ハァ...ハァ...!!...ハァ...」
しかし、実に的確なポイントを打ち抜いていった。
戦いの中でツォンのスピードにも少しずつ追いついていっている。
ツォンは激しい攻防が続く中、両足の靴を無言で投げ脱いだ。
加えて更に20本の指がセシルを襲う。
後ろに後ろに押されていく。
結果、足蹴りがどこかにヒットしたようで呻きを上げる一瞬の隙を取られてしまった。
セシルの額に中指が立てられたところで、ツォンはようやく演奏を中断した。
「素人と思いきや、
一朝一夕で覚えた腕じゃないな」
「...ハァ...ハァ...」
「しかし残念だったのが、その腕に体力が追いつかなかったということ」
虚ろな目と目が合う。
「こんな状況だ、交渉に無駄な時間を割くわけにはいかない。
...クリスタルを渡せ。
このまま額に、赤褐色のホクロを空けられたくなければ」
「サンダーーーーーーー!!!!」
セシルは、左ポケットに手を突っ込むとそう叫んだ。
与えたダメージ量は測定出来なかったが、真っ直ぐツォンの体に雷の柱が落ちた。
「...どうして...どうしてこんな目に合わなくちゃならない...!
どうしてみんな楽しくやってるのにそれを壊そうとするんだよ!!!」
「奇遇だな。
俺も同じ事を考えていた」
後ろからの気配がした。
「!!指切りっ!!」
クロスさせるは指という指、そして重ねられた両腕と共に力を交差させた!
825ダメージ!!
熱くて仕方がない背中。
「!!!拳万!!!」
1299ダメージ!!!
握りこぶしで頭からどつかれ、直下の勢いで地面に顔を埋められた。
切り刻まれた制服の切れ端がすぐそこに。
「憎しみの心を消すことは出来ないが...
我々が、代わりに行動を移すことでその人間を救うことが出来る。
手を汚すのは自分達だけで十分。
先代により...
タークスはそういう信条で結成された。だから......」
覗き込んできたツォンの髪がダランと垂れて来た。
「針千本」
1000のダメージ...
「...怒りや憎しみで俺を倒すことは出来ん」
「......」
「俺の、仕事に対する信条をより強くさせるだけだから」
刃となった髪の毛と一緒に、一粒の涙がセシルの顔に落ちていった。
今日この地で...いくつの夢が消えていったのだろう。
セシルのHPは既に0。
その状態で、息なのか声なのか分からないぐらいのか細さで口は動いた。
「......怒りでも...憎しみでも...」
「怒りでも、憎しみでもないとでも言いたいか」
「でも、それは本当なのかい?」
体が、フゥっと軽くなった気がしたのは突然のこと。
時間が止まった。
舞い上がる砂粒さえ動きを止め、まるでそれは銀河に漂う星のよう。
そういやアーロンのいた用務員室でも
似たような現象があったなと、セシルは痛みの取れた体で立とうとした。
赤髪の男の子が、やはり側にいた。
笑っているようにも泣いているようにも見えた。セシルもそんな心の状態だった。
「思い出したことがあるかい?
子供の頃を。
その感触
そのときの言葉
そのときの気持ち」
パァァァっとフラッシュバック現象が起こる。
頭上に、思い出が映像となり蘇る。プラレタリウムを見ているような感じで。
「僕、ローザ...それにウェッジ君とビックス君とで
幼稚園の頃にここでキャンプを張った夜だ...」
4人が、無邪気にレトルトカレーライスを作っている。
「大人になっていくにつれ
何かを残して 何かを捨てていくのだろう」
「言っていることサッパリ分かんないよ!!キミは一体だれなんだ!!?」
「キミは僕さ。
だから、僕はキミってことになる。
リンドブルムに置いてきた、セシル=ストライフ幼少の頃の思い出。
今の今まで、この地にアーロン先生に封じられていた怒りと憎しみの記憶」
「.........ああぁ、なるほど...
言われてみてやっと思い出した。
僕の髪って......昔は赤かったんだよね」
最初に目が大きく見開いた。
そしてセシルは、うずくまりガクガクと震えだした。髪を両手で掴み、
「時間は待ってはくれない。
にぎりしめても
ひらいたと同時に離れていく」
「うわぁあぁぁぁあああああああああああああ!!!!!!」
「リンドブルムが無に溶け込んだことで、僕という記憶の封印も解けた。
少しずつ思い出して行くんだ...
逃げるんじゃない。怒りと憎しみを受け入れ、それを克服していくんだよ。
未来の僕...」
大きく光のない空へ向かって叫んだ。
「なんだと!?まだ立ち上がるだけの力があるとは...!」
世界は再び動き出す。
セシルはナイトスティックを横薙ぎに向ける。
「暗黒剣っ
ーーーーーーーーーーー<画・龍・点・晴>ーーーーーーーーーーー!!!!!!」
一気にそれを振るう!!
先程のエアロとは
比べ物にならないほどの大きさを持つ竜巻がツォンを吹き飛ばしていった!
セシルは戦闘に勝った。
これほどまで勝利を感じさせない戦いはなかった...
近づいてくる、ひどく懐かしい機械音。
セッツァーの飛空艇から
ありがちっぽい縄ハシゴが降りてきたのも、ほぼ同時刻であった。
視界が悪い中セシルの位置を確認出来ていたのは、
偶然にも、彼が悪あがきののため使ったサンダーの魔法のおかげだった。
今許される唯一の安息の場所へ戻るため、セシルは残す力を使って走った。
グラウンドはもう、殆どが<無>に侵食されている。
倒れていたナイター照明の上に乗って、垂れ下がり動いているハシゴへ急ぐ。
先の先まで来たところでセシルはジャンプした。
手を伸ばした。
「セシルーーーーーーーー!!!!」
「クエクエ〜〜〜〜ッ!!!!」
ローザ達の声が上の方でした。
悲痛な声の理由がしばらく分からなかった。それは、だんだんと遠くに...
伸ばした右手は、空気のみを虚しく掴み
大きく口を開いた<無>の中に体が落下していった。
光のない、闇の世界へ。
自分の状況を理解したセシルは、
眠るように、再会を果たした赤髪の自分を振り返ってみることにした。
...両親が殺されたのは小学3年生の夏休みだった。
葬式を済ました次の日。
いつものように兄と剣の稽古をつけた。
荒れていた自分。
稽古では真剣を使うレベルまで来ていた。
「僕は。
クラウド兄さんを誤って斬ってしまった。
誰に向けていいか分からない怒りと憎しみは、兄さんの命を奪った」
その日、セシルの髪はショックで白髪と化した。
「僕はリーブの本当の子供じゃなかった...
フフフ、やっぱり。
当たってたじゃん僕の予想」
一度に入ってきた情報量が少し多すぎる。
疲れたので、意識を絶つことにした。
このまま回想を続けて、義理の父親のため涙を流すのが悔しかったから。
もう、何も考えなくていいんだ...
ドゴォォン!!
「ううっ!」
腹部に何かがめり込んできた。
回転しながらセシルの体ごと突き上げるそれの正体は、
<無>の中から飛び出してきた、ブリッツ専用のボールだった。
コントロールされるようにセシルをレッドウィングの船上に乗せ上げると
「(...あのボールは...)」
シュートを決めたボールは、持ち主の元へ落ちていった。
ドアが開く。
セッツァーが紅茶を入れてきてくれた。
「...あいつは?」
「今はローザが容態を見ている。
少し、熱があるようだ。未だ何かにうなされながら眠っている」
頭が重く、全身に熱を帯びているのはセッツァーとて同じだった。
甲板に出たくなかった。外側の窓に向きたくなかった。
地上を隔て空をくりぬいた穴は、
幼き日に見た世界の終わりを象徴させた悪夢そのものだった。
遠くからは、一瞬の出来事にしか見えなかったかもしれない。
しかしその現地では、今でも悲しみと悲鳴のドラマが一人一人で続いているのだ。
渡された紅茶を断るミンウ。
この男は、思えばいつも自分達とは逆の行動を取っていた。
窓の外の光景を、両目に焼き付けんとばかりに見ていた。
ゆっくりとセッツァーは
会話をする気でもないのにエッジの前の椅子に腰掛ける。
「ひどいな...ひどするぎる」
ボコを相手にずっと独り言を続けていたエッジ。
喋ってないと落ち着かないのだ。
エッジは、カップの取っ手を握りながら中で立てる波紋を見つめて動かなかった。
その波紋が、予兆もなく大きく揺れた。
風ではない不自然な揺れが船全体を襲う。
セッツァー達は甲板へ走った。
「うわァーーーーーーーー!!!!」
暴走したセシルが船の舵輪をめちゃくちゃに回していた。
横では、力なくマネキンのように立つローザの姿があった。
「セシル!やめろ!」
セッツァーにより羽交い絞めされると、腕の中で抵抗もなしに大人しくなった。
同時に、ローザが船室の方へ駆け出して行ってしまった。
舵をオート機能に戻そうと手を掛ける。
その際に、ゆっくりとエッジ達の方に向きなおし
「戻るか...?ミッドガルに」
提案を掲げた。
それはすぐに否定された。
「ここまで来て何をバカなことを。
先行く航路は変わらない。遅れたその分ミシディアに急ぐまでだ」
「ざっけんナよ!!!!」
エッジがミンウに掴みかかった。
「何がここまで来てだ!!!
いい加減にしてくれよ、これ以上、手の先の下らない理想計画を夢見るのは!
防げたんじゃ、ねぇのかよ...!?
生徒会が、宝条の調査にもっと力を入れていれば、リンドブルムのみんなは
何事もなく体育祭を続けることが出来たんじゃねぇのか!!?」
「ちょ、ちょっと待ってくよ、
...俺達の高校の元教頭のことだよなぁ宝条って。
あいつがやったのか?だったらこんな事をした理由は何なんだ??」
「宝条と、その息子の
元はエクスデス軍幹部の一角を担っていたセフィロスの二人さ。
前から、シドの名前とクリスタルの周辺で
不穏な動きは見せていた。
こいつら生徒会は、その全てを知っていたにも関わらずなぁ...!!!」
「関わらず何だ?
何時だって、どっちつかずな行動しか取れなかった貴様に言われたくない!!
いっときとして我々が
頭からミッドガル学園のことを忘れなかったと思うか??!!!」
ひらりと...ミンウの口元を覆っていたマスクが剥がれた。
「ミッドガルに戻ってどうする。
卓上を囲んで、会議をして、
一歩も外へ出ないまま踏ん反り返っているヒルダの言葉をずっと待っている気か??
僕はもうこれ以上待てないね。
大小なんて関係ない、
その間に、世界では数え切れないほどの血が実際に流れているんだ。
みんなが待っているんだよ!!!!!」
胸倉を掴みながらも、とても直視出来なかった。
目元とその周りの顔立ちから想像するに、
マスクの下はどれほどの嫌味な素顔かと思っていたが
実際は、おびただしいヤケドの痕で皮膚はケロイド状態になっていた。
「セシル=ストライフ...
一筋の希望というわけではないが、確かめたいことがある」
マスクを戻しながら、ミンウはエッジの手を振り解いた。
「......」
「キミが大戦艦にスパイとして潜り込んだ時...
ある部屋で、各自持ち歩いてるはずの生徒手帳から発信光がほぼ同時に消えた。
...そうだよ...その手帳には
生徒一人一人の動きを会長が監視するため小型アンテナが仕込まれているのだよ。
当時は、モニターか衛星の不調だと思っていた。
原因が判明する前にすぐに元に戻ったからだ。
しかし...
遅くなったが報告を聞かせてくれ。あの時、大戦艦でなにがあったのかを」
「......
...さっきは取り乱しちゃってゴメン...
ちょっとは落ち着いたから、だいたいでいいなら話す。
...スパイに入ってまず...
僕は、シャドウって相方のスパイを探すことにしたんだ...」
セシルは回想を続けた。
その思い出の先に、どんな答えが待っているかなど考えもせず
浮かんだ言葉を口にしていった。
「...途中...騒ぎが起こった...
大戦艦の動力室に、侵入者が出たって。シャドウだと思って助けに行こうとした。
でも、そこにいたのは違った...」
「誰だ」
「......セフィロスがいたんだ。
怖かった...ビッグホールウェイで初めて会ったときも怖かったけど
そんなんじゃなく生きた目をしていなかった。
あの時から、大戦艦にあった風のクリスタルを狙っていたんだ...」
「見たのはそれだけじゃないな」
「声のした部屋には何故かセフィロスしかいなくて、
その後にギルガメッシュがカラオケモードに入って奴と戦ったんだけど...
...あっ。
そうなんだよ、一度みんな次元の穴に消されていったんだ。
けれどセフィロスがいなくなって」
「そこで、規模は違えど今回と同じことが起こった。そうだな?!」
セシルは顔を上げながら頷いた。
「俺にも分かる様に説明してくれないかい。
なんでここで大戦艦とやらの話が出てくるのか」
「つ、つまり副会長...!!」
「リンドブルムは、まだ死んでしまったわけではない」
アーロンの声がセシルの背後からした。
いつ現れたのか...細い船先の上に立ち、こちら側を見据えていた。
「失われた地図の欠片を生かすか殺すか、それはお前達5人に掛かっているということだ」
「ああっ...あ、あ、あなたはっ」
驚いたのはミンウだった。
――――ミッドガルハイスクール・生徒会室
「感じる......止まっていた大きな時が。再生された」
一人の男がきびすを返した。
慌ただしい周りの騒音を制止した仮面が、自信の声だけを中に立ちこめさせた。
「...あ、あ、あなたはっ」
ミンウは、船先に立つ男をまるで幽霊でも見たかのように指さした。
もちろんセシル達も名前をあげて驚いたのだが、
その名前の呼び名はそれぞれが違っていた。
「アーロン!」
「用務員のおっさん!!」
「...アーロン元理事長......!」
??アーロン元理事長??
おかしなことを言うもんだと。笑える気分ではないが勘違いを指摘した。
それでもワナワナと震えるミンウは、
驚きもあるのだろうが、感動も混じりいる声で説明を付け加えた。
「知らないのも当然か...その任期は僅か半年だったのだから。
しかし、今のミッドガルの体制を一人で作り上げ
20代目校長を、その最後の日までガードしていった話は
一部では伝説ともなっている」
「お、おいおい、このおっさんがまさか?」
「伝説の理事長...時には、そう呼ばれることも」
それらは、一度も聞いたことのない話だった。
アーロンの顔を確かめるセシル。
自分がよく知る用務員のおじさんだった。数年前と顔は変わっていない。
「フッ。
確かにそんな時代もあったな」
話をあわせて、からかってるんじゃあるまいか。
「リンドブルムで用務員を務めていることは知っていました。
無事で何よりです...
そして、こうしてあなたに出会えた事を幸運に思います」
「あのさミンウさん...夢を壊しちゃうかもしれないけど
この人はそんな理事長だなんて」
「どうでもいいが、許可もなしに何でこの船に乗ってんだグラサンモップマン!」
「ど、ど〜でもいいけど
見てて心臓に悪いから早くこっち降りて来てくれって!
何時までもそんなとこ立ってないでサ」
「ありゃ?!!」
言わないこっちゃない。
一瞬の隙にアーロンの姿が船首から消えてしまっていたのだ。
これで足を滑らせて落ちてしまってたりしたら悪い冗談だ。
ミンウは凄い形相で手すりに駆け寄った。
「...だが、何が伝説なものか。
俺は結局20代目校長を守ることが出来ず、
先程もまた負けてきてしまったところだからな...」
...声がした。
「まさに、同じ敵にな...」
「アーロン!!ど、どこに!!」
セシルは驚いた。しかし今回驚いているのはセシル一人だけだった。
手すりから地上を見渡している状態のミンウ。
ムンクの叫び化しているエッジに、
飛空艇に合わせ、近くで飛んでいた鳥に手を振り現実逃避しているセッツァー。
全てが甲板上で停止されていた。
その一方で遠くでは何事もなく雲が流れている。
時が、レッドウィング周辺の時が止まっていたのだ。
「覚悟を決めろ。
この最後の時が元に戻るとき、お前は真実への物語を歩むこととなる」
直接、頭の中に響き渡るアーロンの声。
大きな身震いが一瞬セシルの体を突き抜けていった後、
自分の知るアーロンが全てではないということを不思議に受け入れることが出来た。
もう探し回るのはやめた。
「......一体何者なの?
僕の記憶を閉じ込めてたのは、アーロンだったんだよねぇ?」
「ああ」
「でもってそのアーロンはミッドガルの元理事長だった」
「そうだな」
「どういうことだよ!おかしいでしょ!」
「何もおかしいことはない。
20代目校長が殺されたのが8年前。
のちに俺はリンドブルムへ渡り...用務員としてお前の成長を見守っていた。
お前の心が壊れてしまわぬよう、記憶の一部を封じて」
「おかしいのはそこじゃなくって!
なんで、見ず知らずの子のためにそこまでする必要があるんだってことだよ!」
「...全ては<血>によりしもの...
お前がここまで来た理由も、俺がここにいるのも<血>に運ばれた運命ということだ」
セシルは無言で自分の両手を見た。
真っ赤に血で染まる両手。思い出される、兄を斬ってしまった呪われし日の自分。
アーロンはしかし、セシルの心を見透かしたように首を横に振る。
「教えてやろう、お前が何者かを」
一定の間を置き彼は放った。
「お前は...
学園創立者・フリオニール=ハーヴィから受け継がれる
<校長の血>を引く者だ」
ペチャと肌に冷たい感触を受けた。
実体を目の前に現したアーロンが、モップの先で自分を突いていた。
「学園と、校長一族をガードするのが理事長の務め。
...殺された20代目校長こそ、お前の本当の父親だ」
「ハ...ハハっ、なんだよそれ」
「敵の名それは
逸早く計画に気付いた校長を殺し、今再びクリスタルを奪うため影を現した宝条。
ミシディアへ向かえっ。そこで真実を見つけるのだ!!」
「くっだらないよ!!!
学校消されちゃって頭おかしくなってるんじゃないの?バカバカしい!!」
ボロ雑巾のような匂いのするモップの先を、セシルは怪訝そうに横に払おうとした。
すると、棒の部分が真ん中で折れかけた。
腐っていたのだ。
少しやりすぎたかと思い、アーロンの顔を覗いたセシルは震えた。
「アーロン、まさか...!」
気付いたときには背中を向けており、細い船先へと歩き出していた。
「初めに言っただろう?全ての時を元に戻すと」
白髪混じりの髪がしだいに抜け落ちていく。
一歩踏み出すことに服の色があせていき、同じように肌から血の気が引いていった。
「...ああ。俺は死人だ。
8年前に...
お前の両親を守るため宝条に挑み、殺され、命という時をこれまでずっと止め続けていた」
「待って...待ってったらアーロン」
「伝説は終わった!!!!
これより先は、お前たちの手で物語を紡いでいくのだ!!!!」
その叫びは最後の力だったのかもしれない。
徐々に体が消え始めていく。
セシルはそれを追いかけようとするが、足がしびれて絡まり転がる。
「イヤだ!!これ以上一人にさせないで!!
置いていかないでよアーロンっ、一緒に付いて来てよ!!!
ぼ、僕が本当に校長の子なら、それを守るのが理事長の職務ってやつでしょう!!?」
「...いるではないか。
4人と1匹の、頼もしいガード達が周りに......」
「イヤだぁぁ!!!アーロンっっ!!!」
「じゃあ、な......」
後ろに向かって大きく右腕を上げ、
「アーロォォォォォン!!!!!」
その男は、ある筈もない最後の足場へ踏み切っていった...
「これより生徒会役員会議を始める」
8つある席の中、空いたままの椅子が前会議より増えていた。
それでもリンドブルムで起こった事件は、彼らの収集を余儀なくさせていた。
抜けた席は...
No.8−シャドウ
No.4−エッジ=エドワード=ジェラルダイン
No.2−ミン=ウ=セネスティス
そして、机の中心であるNo.1−ヒルダ=フィン。
事件の報告は、まさに寝耳に水であり
ショックを受けたヒルダはそのまま寝込んでしまったらしい。
無理も無い。それは、同時に父ファブールの訃報でもあったのだから。
「お、おいおい、どういうことだ...」
会長が座るはずの席には、違う人物が腰を据えていた。
他の3人の神官がざわめき続けていた。
「何で...アンタがそこに座ってるんだ、ゴルベーザさんよ」
「...会長が倒れ、
副会長はミシディアへ向かってる途中。
ここから先、会議の進行役及びアルテマプロジェクトの総指揮は
事実上、現トップナンバーであるこの俺が取らせてもらう」
「吾留兵お前、正気か?
たまに長ゼリフ喋りだしたと思えば」
「番号が若いからといって調子に乗ってんじゃねぇゾ。
No.3といってもアンタは総書記であり、なんの発言力もない筈だっ」
「不満か...?」
「...難しいな...
その怪しげに満ちた
月の光さえ漆黒に映し出す虚像と現実の狭間の立方体という名の現実の...Zzz」
「つまりオレ達以前に、他のリターナー達が
得体も知れないダンボール野郎の下で動くかどうかってことだよ」
「そうだな...このダンボール箱も、これ以上被っている必要もないな」
ゴルベーザは、首を入れている箱の穴の部分に手をかけた。
小学生の時に手作りで仕上げた仮面。
色が剥げる度に律儀に塗り替えていた、黒のマジックインキの匂いとも
これでおさらばだと思うと少し淋しい気もした。
長い時を彷徨っていた名前が、今ようやく表に照らされる。
金髪の、チョコボのそれにも似たツンツン頭が中から姿を現した。
「......。
俺の名はクラウド・H・ストライフ。
先代クルーヤ校長の血を受け継ぎ、ミッドガル21代目校長の座をここに踏襲する」
現実逃避をしていたセッツァーは、
ハッと我に返り慌ててセシルを取り押さえようとした。
油断も隙も無い、またしてもセシルは勝手に舵輪に手をかけていたのだから。
「落ち着けセシル!!」
「えっ、いや僕なら全然落ち着いてるけど(汗)」
暴走列車パート2でも上映するのかと思いきや、
セシルはいつものマイペースな返答でセッツァーをパチクリ見ていた。
「だけどこの操縦、ゲーセンのようにはいかないね。
教えて欲しいんだセッツァー。レッドウィング号の動かし方を」
「う、う〜む」
「数秒前まで立ってるのもやっとだったくせして」
「羨ましい...ほんっと立ち直りの早い...
...えっと、改めて聞くが?行き先はどっちにするんだ船長?」
「もっちろん。
西の方角・ミシディアへGOさ!!」
上唇から血が流れるのを制服で拭う。
枯れきったその目から、もう涙が落ちることは無いだろう。
覚悟を決めたセシルは、スマイル顔に眉はりりしく西へと舵へ取るのだった。
船は、コーネリア大陸を抜けバストア海に出る...
MIDI詳細
141章...「Fragments of Memories」
by.ババロア2世
142章...「独りじゃない」
by.R-sagamiさん
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143章...
144章...「アーロンのテーマ」
by.ditchさん (HPへ)
「仲間を求めて」
by.ちゅーそんさん
(HPへ)