第三章「プロポーズも言えないで」


場面転換しまして、ヤマブキジム。
ジムリーダーのナツメさんは自分の部屋のベッドにずっと顔をうつぶせたままだった。
どうやらさっきのサカキ氏の発言のことで悩んでいるらしい。

(そんな…結婚だなんて、お嫁さんなんて…全然、考えてないのに……
 サカキさん、勝手だわ…)

彼女が悩んでいると後ろからカスミが声をかけた。

カスミ「テレポートボードで勝手に入ってごめんなちゃい。ナツメのことが気になってさ」

ナツメ「カスミちゃん……」

カスミ「サカキさんが言ったことに悩んでいるんでちょ。
    そりゃあ、サカキさんも悪いと思うけどさ、
    でもあれはプロポーズとも受け取ってもいい発言だったと思うのよさ」

ナツメ「それはそれで嬉しいけど…でも…私の気持ちも考えてほしかったわ」

カスミ「じゃあ、ナツメさんは嬉しくなかったの?」

ナツメ「そうとは言ってないけど…頭が混乱しちゃって…」

カスミ「そこであたいは二人で話し合うことをおすすめするだわさ。
    サカキさん、カモーン!!」

カスミがそういうとテレポ−トボードからサカキ氏がフッと現れた。

ナツメ「!…サカキさん…」

サカキ「カスミ、ありがとう。もう下がってもいいよ。これから大人の話をするから」

カスミ「あいよ」

カスミはその場から気配を消した。

サカキ「ナツメ、話を聞いてほしいんだ」

ナツメ「ごめんなさい…今はひとりにしてほしいの」

サカキ「ああ、悪かった。ひっかいても、つねってもいいよ。
    でも、話は聞いてほしいんだ。なにをしてもいいから」

彼の言葉にすっかりナツメさんは観念したように、彼のほうへ顔を向けた。
サカキさんはホッとするとゆっくりと喋り始めた。

サカキ「私の無神経な発言のせいで君を傷つけてしまったな…。
    言い訳はしないよ。事実は事実なんだから。
    例え調子にのって、不意に口から出任せいってしまったこともね。
    しかし…その…本当にそうなったらいいなと思ったのも事実なんだ…」

しばし二人の間に沈黙ともどかしさが流れた。
彼女の、いつまでもドキドキさせないで言うならはっきり言ってほしい、
彼の言いたいのに、恥ずかしい、でも言いたい、恥ずかしいのいたちごっこなもどかしさ。
そのもどかしさは電気をつけたまま居眠りしてしまい
電気消そうか、でもわざわざ立ち上がってボタンを押すorひもを引っ張る
…のは面倒臭いというような気持ちに似ている。
沈黙は続く。
ときどきサカキさんがあの…その…とぶつぶつ言っていたが
それから先はなにもきりだすことができなかった。
30分経過。神経をきらしたナツメさんはとうとう言ってしまった。

ナツメ「……私…言いたいことも言えないような人は好きじゃないんです。
    いつまでもウジウジしているようなつ◯やき◯ロータイプの人って嫌いです」

存在すら忘れられたような芸人の名を出したということはナツメさん相当頭にきてたらしい。

それを聞いて慌てたサカキさんは

サカキ「わ、わかった。はっきり言おう。
    …君のエプロン姿が見たいんだ」

彼はプロポーズではなく本心第一号を言ってしまった。
いや、多分プロポーズの言葉にと用意してたと思うんだけど
あまりにも下心がみえみえではないか。
せめてウェディング姿って言えば良かったのに。
ナツメさんはあきれた顔&ちょっと怒った顔になってしまった。

(ハッ!私としたことが…、別の言葉、別の言葉)

サカキ「君の作った朝昼晩の食事を毎日、死ぬまで食べたいんだ」

なんかありきたりすぎる。

サカキ「私と一緒にバーバパパみたいなほんわかした家庭を作ろう」

なんかやだ。

サカキ「懐中時計の『懐』って字の意味、知ってた?あれ懐(ふところ)って書いて、
    壊れてるんじゃないんだってさっ」

それはプロポーズじゃない。
こうして延々と、また30分サカキさんはプロポーズの言葉を選びだすのに時間をかけた。
そしてついにため息をついたナツメさん。
サカキさんに近づいて両腕を彼の肩に乗せる。

ナツメ「…私から言わせてもらいます。
    …サカキさん、私と結婚してください。
    私の生涯の伴侶となって同じ道を共に歩いてみませんか?」

ナツメさんはすらすらとプロポーズらしいプロポーズでサカキ氏に告白した。
その途端、サカキ氏は力抜けたようによろよろと床に腰をついてしまった。

ナツメ「サカキさん、どうしたんですか?」

サカキ氏しばらく呆然。

サカキ「ハハ…私もすっかり年をとったのかな…自分の言いたいこと…
    しかもプロポーズを言い出そうと躊躇している間に相手に言われてしまうなんて。
    情けないな、そんな度胸もなくしてしまったのか」

ナツメさんがサカキさんの顔を覗き込んだ。

ナツメ「私もついカッとなっちゃって…でも、サカキさんでも緊張することには
    すごく緊張するんですねぇ」

サカキ「心臓が止まるかと思ったよ。…なんだか、自分が小さく見えてきたなぁ」

ナツメ「これから二人で直してゆけばいいじゃないですか」

サカキ「二人でか…(なんて素敵な響きだろうby心の声)
    …こんな情けない中年の私ですが…どうぞ、生涯末永く…よろしくお願いします」

ナツメ「こちらこそ、お願いしますね」

そういうと彼女は彼に…といいたいところだけれど、作者がどうも書けないので
この場はこの場で終わらせることにいたします。

(単に短い接吻をしたと書きたいんだけど、あとで自分で読み返すと
 「か〜っ!!、チキチョ−、若造のくせになにませたことをかいてやがるんでぃ!!」
 と江戸っ子口調に恥ずかしくなるたちなので。
 略すとおませなの。ごめんなさ〜い)

事が終えると、彼は嬉しかったのか、はりきって

サカキ「よし、飲みに行こう!!」

なんて言い始めた。男はいつまでたっても子供なのだ。

ナツメ「いきなりどうしたんですか?」

サカキ「結婚の前祝いということで、なんだか無性に飲みたくなってしまってね。
    バーと言いたい所だが、3人では雰囲気にあわないだろう」

ナツメ「3人?」

サカキ「カスミ、でておいで」

そういうと本棚の影からカスミがちょこんと顔を出した。密かに舌打ち。

カスミ「てへっ、ばれちった?」

ナツメ「もう、カツラさんも同じだけど、私達って立ち聞きするくせがあるのかしら?」

同時刻、タケシ、もちろん、くしゃみ。

カスミ「だってぇ…あたいも大人なんだからさ。大人の話聞きたかったもん」

サカキ「まだまだ、ガキンチョのくせに生意気な口聞くな。
    黙ってたらジュースくらいおごってやってもいいんだけどな」

カスミ「行く行く!連れてってよぉ〜。黙ってるって約束するのよさ!」

ナツメ「カスミちゃんもまだまだ子供ね」

3人は談笑しながらジムを出てサカキさんいきつけの飲み屋へと歩いた。
歩いてゆく姿はどこか親子のように和やかである。
しかし別の飲み屋にすれば良かった…とサカキさんは後で後悔するはめになる。

同時刻、イエロー松島がギターを弾いていた。



続く (絵・ババロア2世)