第二章:溶岩悪夢の始まり


「あぁっ新種のコーヒーが売ってるっ!」

神羅ビル六十四階の休憩室の自動販売機の前で、イリーナの嬉しそうな声がした。
彼女、イリーナは、タークスの紅一点だ。
まだタークスに入って間もないが、なかなか優秀な人材である。
耳より少し長い位置で切られた金髪の髪の毛に、朱色の瞳。制服の良く似合う、
まるで幼い少女のように快活な女だった。
そして、見かけによらず馬鹿力である。それと、ツォン氏ラブである。
関係ないが、最近ダイエットに凝っているらしい。

「このコーヒー買ってみましょうっ」

そして、イリーナはお金を入れると、そのコーヒーのボタンを押す。
がらん・・・・・・・・・
そんな音がしたのちに、イリーナが取り出し口からその缶コーヒーを取り出した。
赤い缶のコーヒーだった。そのコーヒーの商品名は、
『溶岩コーヒー』

「・・・・・・・・・・・・・・・」

イリーナはそのコーヒー名を見て、一瞬呆然とする。
買う前に、賞品を見ていなかった。まさか、こんな名のコーヒーだったとは・・・。
そして彼女は、しばらくしてから、隣にいる一人の男に弱々しく声をかけた。
彼女の声をかけた相手は、煙草の自動販売機の前に、突っ立っている男。
彼の名は、レノといった。
ひょうひょうとした風貌の男だった。
少ない真っ赤な髪(きっと将来ハゲるぞ)を伸ばし一本に縛っていて、
顔には二つの傷があった。
こいつもタークスの一員である。
一見、そんな風には見えないのだが、れっきとしたタークスなのである。
そして彼は、タークスに入ってからずっと長年(今現在も)、
『タークス』という名前のことを『スクーター』という名前だと勘違いしていたりする。
「せ、先輩、この『溶岩コーヒー』って、な、なんなんでしょう・・・?」

イリーナの問いかけ。
が、けれど、一方レノは、

「うーむ・・・煙草、値上がりしたな、と・・・・・・うぅむ社長の横暴で先月
 給料少なくて、カネないのになー、と・・・・・・」

イリーナの言葉など、全く聞いちゃいなかった。
真剣な目つきで煙草を凝視しているレノ。
そんな彼に、わざとではないようだが、全くの無視をされて、
イリーナは少しムッとなった。なので、

「先輩っ」

不機嫌そうな声色で、そう言って、彼女はレノの背中をトンと軽く押した。
と、すると。
ずしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ
ぁぁぁぁぁっ!!
意外にも、レノは体勢を崩した。両手を宙に挙げながら、豪快に転び、そして、
そのまま煙草の自動販売機に激突した。

「ぐっ、ぐはぁっ!!」

吐血するレノ。

「せっ先輩っ!?大丈夫ですかっ!?」

驚いたイリーナは、目を真ん丸にしながら、慌ててレノの元へ駆け寄った。

「い、いりーなぁぁぁぁ・・・」

思い切り顔を歪ませながら、苦痛の声をあげるレノ。彼は続けて、

「お前は馬鹿力だから、人を押すなといつも言ってるだろーが、っと!」

「すっ、すいませんんん・・・・・・。でも強く押したつもりじゃなかったんですよぅ」

「でも、押すなっ」

と、その時。
からん・・・・・・・・・。
そんな音がしたのを、レノは聞いた。その音は確かに、
煙草の自動販売機の取り出し口から聞えてきた。
その取り出し口を覗き込むレノ。
すると、そこには、

「たっ、煙草っ!?」

煙草があった。
先程、レノがイリーナに押されて、自動販売機にぶつかったときのショックで、
お金を入れてもいないのに、勝手に煙草が出てきたらしい。

「うわーラッキぃだぞ、っと!」

歓喜の声を上げるレノ。

「あっすごーい!ねぇねぇ私のおかげですよねぇっ!」

「けど、俺はめちゃめちゃ痛かったぞ、押されて」

「だからわざとじゃないって言ってるじゃないですかっ!

 それにレノ先輩が私の話聞いてくれないから悪いんですよっ!!」

憤るイリーナに、レノはきょとんとして、

「あ?なんか話しかけてたっけお前?」

「そ−ですよっ!」

「けど、自販機が値上がりしてるもんだから・・・・・・って、

 まぁそれはともかく、煙草煙草〜、っと」

「あっ先輩話聞いてくださいよっ!」

しかし、レノはイリーナ無視で、
自販機の取り出し口からその落ちてきた煙草を取り出そうとする。

「どの種類の煙草だろーなーっと。ま、俺はなんでも吸えるからな、
 なんでもいっかー、と」

そんなことを言いながら、取り出した煙草は、赤いパッケージの、
『溶岩煙草』
一瞬、動作の固まるレノ。数秒後、やっと我に返り、

「なっ、なんだコレは・・・・・・」

レノは、自分の手の中の煙草を見つめた。

「なんの煙草だったんです?」

なんの煙草かと、レノの手の中を覗くイリーナ。

「あ゛また・・・」

彼女の口から、そんな言葉が漏れる。

「溶岩煙草ってなんなんだ、と」

困ったようなレノの口調。

「なんなんでしょーか本当に。さっきから溶岩溶岩って」

イリーナがうーん、と腕組みをして眉根を寄せた。彼女のその言葉にレノは、   
ん?という顔をする。そして、彼は問いかけた。

「『さっきから』?イリーナ、どーかしたのか、と」

「ええ。そのことをレノ先輩に話そうとしてたんですよ?」

忘れた方は、第二章の始めの方を再び見て、思い出してください。

「私の買ったコーヒーも『溶岩コーヒー』なんですよぅ」

「コーヒーも溶岩なのか?」

「はいー」

そー言って、イリーナはレノに先程買った『溶岩コーヒー』を見せる。

「あ、ホントだ、と」

「でしょー?」

それから、両者首をかしげる。そして、その後、同時に顔を見合わせ、

「まずそーだよな」

「すっごいまずそ−ですよね」

と、その時、突然。

「どーした二人そろって」

「うわっツォンさん!」

「きゃぁっツォンさん!」

またもや突如として登場するツォンだった。驚くレノと、
愛するツォンの登場で、驚きつつも喜ぶイリーナ。

「ツォンさんっていつも神出鬼没でステキですぅ」

頬に手を当て、顔を赤らめながら、ぼそぼそとそんなことをいうイリーナ。

「いやぁはっはっはっはっそー言ってくれると嬉しいなぁイリーナ」

頭を大袈裟にかくツォン。

「きゃっツォンさん聞えてたんですかっ?」

恥ずかしそうに言う彼女。

「ああ。私の耳は地獄耳だからね」

「地獄耳の男の人ってかっこいいですぅ」(←ほんとーにそぅ思ってるのかイリーナ)

「じごく・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

と、レノは突然、その言葉を繰り返した。
顎に手をあて、うーむと唸り声を発する。

「じごく・・・・・・赤・・・・・・・・・溶岩・・・・・・」

ぼそぼそと、呟いているレノ。

「?どうしたんだレノ」

「そーしたんです、先輩?」

レノがやけに口数が少なくなっているのに気がついて、ツォンとイリーナは首をかしげた。
しかし、それでもなお、レノは何かを呟き続けている。
けれど、やがて、ツォンに向けて、口を開いた。

「ツォンさん・・・・・・この溶岩煙草とかコーヒーとかって・・・
 ツォンさん、関わってませんか、と」

疑念の眼差しで問いかけられるその言葉に、ツォンはと言うと、

「うんそーだよ」

いとも簡単に頷いた。
そして、その返事を聞くなり、大声でイリーナは、

「ええーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!
 ツォンさんがーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?」

「イリーナ、そこまで驚くほどのことでもないと思うぞ、と」

確かにその通りである。

「で、ツォンさん、この溶岩コーヒーと溶岩煙草ってなんなんですか、と」

レノの質問。

「溶岩シリーズという商品を新しく開発してね、私が」

私が、を強調するツォン。

「何で、特殊工作部隊スクーターのリーダーであるツォンさんが、
 商品の開発を・・・・・・・・・」

レノがひそかにツッコミをいれているが、そんなの誰も聞いていない。
だから、『タークス』が『スクーター』と間違っているのも、誰も注意しない。
一方、ツォンの言葉に目を真ん丸にして、驚いているイリーナは、

「えぇっ!?ツォンさんがつくったコーヒーと煙草なんですかぁっ!?」

「ああ。私が直接箱詰めした品々だ」

得意げに、首を縦に振っているツォン。

「ツ、ツォンさんお手製・・・・・・・・・。私、コーヒー飲みますっ!
 それとレノ先輩っ!煙草下さいっ!」

そう言って、イリーナはレノの返事も聞かずに、彼の煙草を奪うと、
それからすぐさま煙草を吸い、コーヒーも飲む(←味、混じるぞ)
一心不乱に、煙草を吸い、コーヒーを飲みつづけるイリーナはほっといて、
レノはというと、

「それで、その溶岩シリーズって、どーゆー効用の特徴があるんですか、と」

不思議そうに問いかける、彼の素朴な疑問の言葉に、ツォンは、

「パッケージが全部赤い」

「い、いや、そーじゃなくて・・・・・・・・・。効用ですよ効用。効用の特徴です」

「葉っぱが赤い・・・・・・?何なんだレノっ!!これは葉っぱじゃないっ!!
 これはコーヒーと煙草だっ!!一体何を聞いていたんだレノっ!!」

なぜか激怒のツォン。

「それは紅葉っ!!」

ツッコミをいれるレノ。
けれど、なんだか、ボケとツッコミのテンポが悪い気がしないでもない。
ツォンは、げらげらと笑って、

「冗談だよ冗談!じょーだんじょーだんマイケル・ジョーダン!!
 げらげらげらげら」

(つ、つまらないぞ、と・・・・・・・・・!!)

胸中で、再びツッコミを入れるレノだったが、
その言葉を自分の上司に言えるわけがなかった。
やがて、レノは、この寒すぎるギャグに耐えられなくなり、わざとらしく話題を変えた。

「つ、つぉんさん・・・・・・効用のことを聞いていたんですよ、と!
 どーゆー効き目があるかってことです。
 たとえば、コーヒーの場合だったら。ホラ、リラックス効果があるとか、
 普通のコーヒーより体が温まるとか」

よくしゃべるレノ。そんな彼を見て、ツォンは、

「レノ・・・・・・・・・いつになく多弁だな。まさか溶岩に目がないのか?」

「違うぞ、と・・・・・・・・・!!」

「ははははははははははははははははははははははははははははははははは」

 意味もなく、よく笑うツォンだった。

「そーそー。効用の話だったな」

「そーですよ、と」

「効用。それは簡単だ」

「なんなんですか、と」

「溶岩コーヒーを飲むと、耳が溶岩のように煮えたぎるんだ」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・沈黙。

「い、今、なんて・・・・・・・・・・・・・・・?」

驚きとゆーか呆れとゆーか・・・。そんな表情で、頬を痙攣させつつ、レノ。
その言葉に、ツォンは先程の言葉を繰り返す。
「ん?耳が真っ赤になって、溶岩のように煮えたぎるんだ」
平然と言うツォンだが、全然レノは理解しない。と、そんな間に、

「きゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」

イリーナの悲鳴だ。

「耳がっ・・・・・・耳がっ・・・・・・・・・耳がぁぁあああああああああ!!」

「ふふふ、始まった始まった・・・・・・」

ニヤリ、と笑うツォン。
そんな彼にレノは、何を言っているんだ?といった視線を向ける。

「つ、つぉんさん、始まったって・・・・・・・・・・・・
 それよりイリーナっ!!大丈夫か、とっ!!」

「れ、れの先輩っ!!なんか耳がっ!!耳がっ!!
 熱くて赤くて、ぐつぐつ言うんですっ!!」

確かに、イリーナの耳は真っ赤になっていて、
そして沸騰した湯のようにぐつぐつ言っていた。

「これは溶岩コーヒーの影響だぞ、っと!!」

イリーナに駆け寄るレノ。

「こんな耳
 いやですいやですいやですーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!!」

混乱して、ぶんぶんぶんぶん、と手をばたつかせるイリーナ。
レノの言葉なんて聞いちゃいない。
暴れるイリーナの手が、彼女のもとへ駆け寄ってきたレノの、頬に何度も直撃する。

「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

イリーナは馬鹿力なので、そのおかげでレノは思いっきり遠くまで飛ばされた。
ずしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!
どっがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!すぽっ!!
レノの後方にあったロッカーに、彼は激突し、
そして彼の尻がロッカーの中にすっぽりはまってしまう。出られない。
がーん。
しかし、イリーナは混乱状態にあった為、
自分がレノを悲惨な目にあわせてしまったことに全く気づいていないのだった。

「きゃぁぁぁぁぁぁ嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!
 ツォンさんんんんんんんんっ!!助けてくださいぃぃ!!」

けれど、彼女のその助けを求める声もむなしく、ツォンには届かない。

「ふふふ・・・・・・・・・・・・もうすぐ溶岩煙草の効果も出る・・・・・・
 ・・・・・・。溶岩煙草の効果は、耳から針が出るのだ・・・」

と、すると、やはり。
ずばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばば!!

「きゃーーーーーーーーーーーーーー!!耳から針がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

イリーナの耳から、にょきぃぃぃぃぃぃっと針が出まくる。
イリーナ、もはや人間じゃない。

「ふふふ・・・・・・・・・・・ふふふふふふふふふふふふふふふ」

ツォンの笑いは止まらない。
イリーナの耳の針もおさまらない。
レノはロッカーから出られない。
どーなるイリーナの耳っ!!



第二章、完 (絵・ババロア2世)