2−E。
エドガーはそう書かれた4階の教室で足を止め、5メートル後ろのセリスに声をかけた。
「何でそんな後ろにいるわけ?……まあいいや。呼んだら入ってね〜」
「……はい………」
何とか気を取り直し、セリスはそう答えた。
くどいようだがエドガーは血まみれのままである。しかしピンピンして教室の中に入っていく。
ガラッ。
エドガーは教室の扉を開け、教卓の横に来た。
机は30個ほどだが、なかなか広い教室だ。
壁には大きな黒板と掲示板。後ろの白いロッカーは明るい印象を与えていた。
窓からは心地よい初秋の風が入ってくる。
このようにすがすがしい雰囲気ではあったが、
エドガーの趣味であろう真っ赤なバラが飾ってあったりもし、さっきの出来事を思い出させた。
エドガーを見て、生徒達が慌てて席に着く。
全員が席に着くのを待って、エドガーは話し始めた。血まみれのまま。
「はいみなさんおはよー。えーと今日はまず転入生の紹介をするよん。セリスさん入ってー」
「転入生」の言葉にざわつく生徒達。その前にセリスが姿をあらわす。
だがまた顔が引きつっていた。
セリスは気付いたのだ。エドガーの血を気にする生徒が全くいないことに。
(なっ……なんで!?どうしてみんな血まみれを気にしないの!!?
ヘンよこの学校!絶対ヘーンーよ―――――――――――――!!!)
もう帰りたい。意識が遠のく。
「セリス・シェールさんだ。うーん、じゃまず自己紹介でもしてもらおうか」
「はっっ!!!」
ピキ―――ン。セリスは我に返った。
(じこしょうかい!!)
「初めまして♪セリス・シェールです。
第六帝国高等学校から来ました。
趣味はローズ・トピアリー作りです。よろしくお願いしまあす♪♪」
言うまでもないがあの可愛らしい声である。
(そうよ!!私はこの私立FF学園でこの美貌により、素晴らしい権力と
地位を手に入れるべく転校してきたのだった!!白くなってる場合じゃないわ!!!
この美しさに心奪われ、私の前にひれ伏し踊らされる生徒達……
なんて素晴らしい、素晴らしすぎるわ!!!ヒェッヘッヘ!!!)
セリスは立ち直った。
だがこの場合これで良かったのかどうかは定かではない。
「はいどうもありがとう。ああ、クラス委員の紹介をしておこうか。ロック、ティナ」
『はい』
エドガーが呼ぶと、二人の男女が返事をしながら立ち上がった。
「彼らがこのクラスのクラス委員だからね。なにかわからないことがあったら聞くように」
「はい」
答えてセリスは二人を覚えようとよく見てみた。血まみれを気にしている暇はない。
ロックは校則違反も甚だしい外見をしていた。
着崩した制服。両耳にピアス。しかし、瞳はとても優しかった。
何もかも包み込んでくれるような、限りなく真っ直ぐで、温かい瞳。
セリスは思わず見とれてしまった。
そのままぼうっとしていると、目があった。
「あっあの」
セリスが慌てると、ロックはにっこりと笑い、
「よろしくなっ」
元気に挨拶をした。その笑顔は陰湿なセリスとは全く対照的な、明るさにあふれたものだった。
「あっよ、よろしくっ」
セリスも少々どもりはしたものの挨拶を返し、焦ってティナの方を見た。
ティナは青緑の髪を赤い大きなリボンでポニーテールに結い、
リボンと同じ色の丸いイヤリングをしていた。
瞳は薄い紫に輝き、どことなく不思議な雰囲気を漂わせている。
美人というより可愛らしい顔立ちだが、決して幼くは見せない何かがあった。
「よろしくね」
ふわりと微笑し、ティナが言った。
「よろしく」
セリスもまた、笑顔(もちろん陰湿ではない)を向け返事をした。
ちゃりらりら〜♪(ティナのテーマで)
「お、チャイムだ。じゃあ授業始めるか」
「あ、あのおー……私の席は………」
呑気に言うエドガーに不安になりながらセリスが尋ねる。
「ああ、そうだった。えーと君の席は…」
きょろきょろと教室を見回すエドガー。やがて一点を見つめるとぽつりと呟いた。
「うん……ないな」
「な…ない?」
「うん。ない」
きっぱりとエドガーは言った。
「あの…じゃあどうすれば……」
「うーん、そうだな」
身の置き所がないようなセリスに、エドガーはなにやら思案するそぶりを見せる。
そして肩をすくめて言った。
「そうだな…私にはわからないよ」
「あほか―――――――――――――――い!!!!!!!」
どがががががががががががががっ!!!!!
セリスの拳が唸り、エドガーに炸裂した。
「ぐはあっ!!!ななな何をするんだ!!!!」
エドガーは更に血まみれになってしまった。
「やかましいっ!!!あんたさっきからなんなのよ!!!!
突然暴れ出したり席ないとか言ったりも――我慢できんわ!!!常識ってもんがないの!!?」
「じょ…じょうし……なんだそれは!?そんな言葉は知らないぞ!!?」
「この大馬鹿教師―――――――――――――――――――ッ!!!!!」
どっがああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!
エドガーは完全に沈黙した。(エヴァンゲ〇オン調)
セリスは屍となったエドガーを前に、肩を大きく上下させて荒い息をついていたが、
「はっっ!!!?」
突然カッと目を見開いた。
(い…いかんっ!!!つい地が出てしまった!!!
どうしよう!どうやってごまかそうかしら!?
このままでは私の輝かしい未来がってこんな環境じゃそんなもん手に入らないかも知れないけどブツブツ)
気がつけば完全に恐れをなして固まっている生徒達を前に、暗中模索するセリス。
とその時。
ゴオオオオオオオオオオオオオオオ!!!
窓の外から轟音が聞こえてきた。
「な……何!?」
音はどんどん近づいてくる。
ほどなくして大きな飛行船が雲の中から姿をあらわした。
「あっ!?セッツァー!!」
エドガーが起きあがり叫んだ。だが血まみれだ。
(も…もう何が起きても驚かないわよ……)
超人的な打たれ強さを持ち出血多量をものともしないエドガーと、
校舎の壁に当然と言わんばかりに横付けする飛空艇を前に、セリスは遠い目をするのだった。
「フッ……みんな待たせたな!セッツァー様の御登校だぜ!!」
黒い巨大な飛空艇の、豪華なブリッジから身を乗り出し叫ぶセッツァー。
秋風に長い銀髪と制服のブレザー(セリスが着ているのは前の学校の制服)をたなびかせ、
濃い紫の瞳を太陽の光に眩しそうに細める彼は、とても美しく儚げであった。
しかし頬と額に刻まれた大きな傷が、彼は儚くとも弱い人間でないことを物語っていた。
セッツァーはひらりと飛空艇から飛び降り、窓から格好良く教室に着地・・・・・・しなかった。
「うわあああああああ―――――――――!!!!!!!!!!」
ひゅるるるる〜〜・・・・・・ドッゴォォォォォォォン!!!!!!
セッツァーの着地した場所は、四階下の校庭であった。
お約束だが、校庭にはセッツァーの形をした大穴が穿たれていた。
「あれはな・・・セッツァー・ギャッビアーニというんだ。
今のように飛空艇で毎朝登校し毎朝遅刻し毎朝校庭に落ちている。
ほら、よく見てみな、
同じような穴がいくつもあるだろ?
あれらはすべて今までにセッツァーが落ちた穴なのさ。
今ではこのFF学園の名物の一つとなっているよ・・・。
顔の傷も落ちたときついたもの。ああいう傷をセッツァーは全身に持っているんだ・・・
ううっ、なんてかわいそうなセッツァー・・・」
長々と説明しながらロックは熱い涙を流していた。
(熱くなるところなのかここは・・・?)
セリスは思った。やはりこの男もおかしい。
そしてふと考えるセリス。
(名物の一つ・・・一つということはまだ他にもあるってことなのかしら・・・
そうよねきっと・・・だって今「一つ」のとこだけ強調したもの・・・)
考えるセリスの瞳は遠かった。
「セッツァ―――――――!!!!さっさと教室にはいれ―――――――――!!!!!」
血まみれエドガーが校庭の穴に向かって怒鳴った。
「あっ!?」
その時あろうことか、エドガーの口からバラが落ちそうになった!
「くっ!!てえええぇぇぇぇぇぇい!!!!!!」
がちっっ!!!
しかしエドガーはなんとかバラをくわえ直すことに成功した。
「フー・・・危ない危ない・・・。危うく死んでしまうところだった」
(ホントに危なかったわね・・・)
自分の身にも危害が及ぶことを考え、セリスはドキドキするのだった。
そんなことをしている間に、穴からはセッツァーがよろよろと這い出してきていた。
エドガーは気を取り直し、再びセッツァーに叫ぶ。
「お前あと三十秒以内に教室に来なかったらまた遅刻だからな!
ちなみに今日遅刻したら留年決定だ!!気合い入れろよ!!!」
「ガッビィ―――――――――――ン!!!!!!ホントォ――――――――――――!!!???」
エドガーに恐ろしい事実を告げられたセッツァーは、一昔前の死語を大絶叫し、
ム○クの「叫び」の真似をしながら一目散に昇降口へ駆けだした。
「あいつ・・・また『叫び』の真似なんかして・・・いくら趣味だからって」
|
ため息をつくエドガー。 どうやらセッツァーは「叫び」の真似が趣味らしい。 しかし一階から四階で三十秒だ。 靴も履き替えねばならず、気合いだけでなんとかなるものではない。 ちょっぴり(?)エドガーは意地が悪かった。 二分後・・・ ガラッッ!!! 「ぜーぜーぜーぜー・・・う゛っゴホゴホ!ぜーぜーぜーぜー」 「ヒイイイイイイイイイイイィィィィィィィィィ―――――――――――――!!!!!!!」
セッツァーが入ってきた瞬間、 「ああ・・・セッツァー・・・急ぐあまり光速で走りひからびてしまったのね・・・」
そんなセッツァーの姿を見たティナは、
「光速で走って下からここまで二分もかかるのかあ? 「先生!彼は一生懸命走ったんですよ!?そんな言い方はやめてください!!」
(あんたらそれ以前の問題として何で人間が光速で走れるんだ――――――――!!!?? |
セリスは思いきり叫びたかったが、それは心の中だけに留めておいた。
言えばまた何か面倒なことが起きそうだと思ったのだ。
「この学校の人間はみんな光速で走れるぞ」とか言われてしまったらもうどうしていいかわからない。
「あ、そうそうセッツァー、お前留年決定な」
「ガッビィ―――――――――――――――ンン!!!!!!何で―――――――――!!???」
セッツァーはまたムン○の「叫び」の真似をしている。
だが今度はリアリティ壱百パーセント。絵の中からそのまま抜け出してきたかのようだ。
「だってさっき言っただろ、三十秒以内に来いって」
「そんな・・・そんな・・・・・そんなことって・・・・・」
「でもお前もともと遅刻じゃねーか。とっくに授業始まってるだろ。
そこを三十秒待ってやったんだから」
「あああああ―――――――――――――――――――――!!!!!!」
「良かったな。遅刻だけで留年三回。
とうとう二十歳だ。
二十歳の高二なんて滅多にいないぞ。すごいじゃないか!」
「ああああああああああああああああああ――――――――――――――!!!!!!!!」
笑顔を向けるエドガーに、セッツァーは涙を流しますますひからびていきながら、
ドアに向かって駆けだした。
「あっセッツァー!!どこへ行くんだ!!!戻ってこ―――い!!!」
「先生!!ひどすぎますぅぅぅ―――――――――!!!!!」
「慰めたつもりだったのにいぃぃぃ――――――――――――――!!!!!」
手を伸ばし追いかけようとするエドガーと、ハンカチを握りしめ泣き叫ぶティナを振り切り、
セッツァーは涙をまき散らして風のように教室から走り去ってしまった。(登場したばっかりなのに・・・)
「セッツァー・・・足速いじゃないか・・・。
なぜさっきその速さで走ってこなかったんだ」
「先生・・・セッツァーは階段を上るのが嫌いなんです・・・。
きっとエレベーターを待っていたんでしょう・・・・・」
ロックがエドガーに話しかける。
「そうか・・・。セッツァー・・・なんて面倒くさがり屋なんだ・・・・」
教室に寂しい空気が漂った。
なんとなくみんな気まずい雰囲気でいると、
ちゃりらりら〜〜♪
「あ・・・授業終わっちゃったな・・・。
セッツァーの家庭には連絡を入れておこう。じゃあ終わります」
「起立。礼。」
ガララ・・・ピシャリ
エドガーは教室から出ていった。
「セッツァー・・・可哀相に・・・・」
ティナは涙でぐしょぐしょになったハンカチをまだ握っている。
そしてふと展開についていけないセリスに気がつくと、突然くってかかった。
「ねえセリスさん!!可哀相だと思わないの!?そんな平気な顔しちゃって!!」
「えっ!?はっ!!」
非難の眼差しを向けるティナを見て、セリスは我に返った
「よすんだティナ。彼女は転校してきたばかりなんだし。
それに・・・可哀相だと哀れむのも今の奴には残酷だぜ。
同情では誰も救ってやれない。むしろ傷つけることもあるはずだ。
一番いいのはそっとしておいてやることさ・・・」
「でも・・・そんなことって・・・」
ティナを諭すロックに目にはまた熱い涙が溜まっていた。
(・・・なんか勝手にシリアス入っちゃってるし!)
セリスはすっかり出番が減ってしまい、プライドを傷つけられていた。
(同情とかわけわからん以前にこの私が目立ってな――――い!!!)
セリスにとって目立つことは何よりも重要なことなのだ。
「さあ、次の授業の準備をしなくちゃな!!」
そんなセリスの心中はつゆ知らず、爽やかに言い放つロックだった。
〜つづく〜 (絵・ババロア2世)